第62回 遺言の撤回方法について

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益子 真輝

2024-01-26

第62回 遺言の撤回方法について

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概要

遺言は、遺言者の死亡時に効力が生じますが、それまでの間は、遺言者はいつでも、遺言の全部又は一部を撤回することができます。そこで、今回は遺言の撤回方法について紹介します。

前の遺言を撤回して新たな遺言を作成する方法

まず、遺言の撤回方法として、前の遺言を撤回する旨を明記した遺言書を作成することが考えられます。その際には、自筆証書遺言や公正証書遺言などの「遺言の方式に従って」行う必要があります。もっとも、前の遺言と異なる方式によって、遺言を撤回することは可能です。例えば、先に自筆証書遺言を作成した場合において、後に、公正証書遺言によってその自筆証書遺言を撤回することは可能です。

前の遺言の内容と抵触する遺言を新たに作成する方法

別の方法として、「遺言の方式に従って」新たに作成した遺言書において、前の遺言の内容と抵触する内容を記載した場合には、その部分に限り、後の遺言で撤回したものとみなされます。例えば、「私の有するA不動産一切を長男甲に相続させる」と前の遺言書で記載していたものの、後の遺言書において、「私の有するA不動産を妻乙に相続させる」などと記載すれば、内容が抵触することになり、前の遺言の当該部分は、後の遺言で撤回したものとみなされます。
ただし、遺言が撤回されるのは、内容が抵触する部分のみで、実質的にみて内容が抵触しているとは言えない部分については、撤回されたことにはなりません。

遺言者が、遺言作成後に、その内容と抵触する法律行為を行う方法

遺言者が、遺言作成後にその内容と抵触する法律行為を行ったときは、かかる法律行為により、遺言の抵触する部分を撤回したものとみなされます。例えば、「不動産Aを甲に相続させる」旨の遺言をした後に、不動産Aを第三者に売却した場合には、この部分の遺言は撤回したものとみなされます。

遺言者が、故意に遺言書を破棄する方法

⑴ 概要
 遺言者が故意に遺言書を破棄した場合(民法1024条前段)には、その破棄した部分について、遺言を撤回したものとみなされます。
この点、自筆証書遺言の場合、自ら作成した遺言書を破棄すれば当該遺言を撤回したものとみなされます。一方で、公正証書遺言の場合には、原本は公証役場にて保管されていることが通常ですので、仮に、遺言者の手元にある遺言公正証書の正本ないし謄本を破棄しても撤回とはなりません。この場合には、新たに遺言書を作成するなどして、前の公正証書遺言を撤回する必要があります。
⑵ 裁判例
 遺言書の文面全体に赤色のボールペンで斜線が引かれたという事案において、最判平成27年11月20日民集69巻7号2021頁は、「本件のように赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は、その行為の有する一般的な意味に照らして、その遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当である」と判示し、「本件遺言書に故意に本件斜線を引く行為は、民法1024条前段所定の「故意に遺言書を破棄したとき」に該当するというべきであり、これによりAは本件遺言を撤回したものとみなされることになる。」としました。
なお、遺言の一部削除の場合は「加徐その他の変更」(民法968条3項)として、署名押印が必要とされており、厳格な方式が要求されています。もっとも、本件は、文面全体に赤色のボールペンで斜線が引かれた事案であることなどから、遺言の効力が維持されることを前提に遺言書の一部を削除したと考えるよりも、遺言書の全体を不要なものとして、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であると考え、斜線を引いた後に元の文字が判読できても、全体の遺言の撤回として、「加徐その他の変更」(民法968条3項)には該当せず、「故意に遺言書を破棄したとき」(民法1024条前段)に該当すると判示したものです。
ただ、このような遺言の破棄の方法では、裁判等で争いになる可能性が否めませんから、やはり新たな遺言の作成等、より確実な方法での破棄をお考えになることをお勧めします。

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益子 真輝

同志社大学法学部法律学科卒業
神戸大学法科大学院修了

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