第5回 財産承継制度の比較

第5回 財産承継制度の比較

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前回までの3回に渡り、財産承継に関する信託についてご紹介しました。
今回は、各財産承継の制度の特徴についてご説明します。

1 死因贈与

(1) 概要
死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力を生ずる、贈与者と受贈者との間の贈与契約です(民法第554条)。贈与者は、家族、法人等の受贈者との間で、金銭、不動産、株式等を目的物として、死因贈与契約を締結することが可能です。
(2) メリット
受贈者は、死因贈与契約に合意しているため、その内容を把握・承諾しており、死因贈与契約に基づいた行動をすること(端的にいえば、贈与者が死亡した時点で目的物を自己に帰属させるよう求めること)ができます。
贈与者は、受贈者に何らかの義務を負担させる(例えば、現金を贈与するかわりに、病気の親族の面倒を見て欲しい等)という一定の「負担」をさせることが可能です。
贈与者は、生前に、贈与する財産の所有・使用を継続することができます。
(3) デメリット
原則として、贈与者は一方的に死因贈与を撤回することが可能であるため、合意の相手方である受贈者の立場は不安定です(同法554条、同法1022条)。また、例外的に、負担の履行期が贈与者の生前と定められた負担付死因贈与契約に基づいて受贈者が約旨に従い負担の全部又はそれに類する程度の履行をした場合等、受贈者の利益が考慮され、死因贈与の撤回が許されない場合があります。この場合、贈与契約の内容を変更できないという贈与者にとってのデメリットが認められます。
受贈者が贈与者の死亡に気づかず、スムーズに契約が履行されない場合があります。
負担が付されても、受贈者が任意にその負担を履行する確実性はありません。残された家族の介護のための負担付き死因贈与をしても、負担をする受贈者と、それによって利益を得る残された家族との利益が相反し、適切な対応がされることが難しい状況があります。

2 遺言

(1) 概要
遺言とは、自分の死亡時に存在する財産の処分等に関する意思表示のことです(民法第964条等)。当事者間の合意で成立する死因贈与契約とは異なり、遺言者の単独行為です。
(2) メリット
遺言者の財産を対象として、遺言者の単独行為により、財産の処分を決定することができます。
遺言は単独行為であり、合意をする相手方が存在しないため、後日心変わりがあった場合でも、合意の相手方の利益・期待に制限されずに、所定の方式に従って撤回及び内容変更をすることが可能です(同法第1022条)。自筆証書遺言を変更する場合には、既存の遺言書において、変更箇所を明示し、変更した旨を付記して署名し、変更の場所に押印をする方法で変更することが可能です(同法第968条3項)。
公正証書遺言について、その過程で証人2人以上の立会いと公証人への口授という方式が必要であり(同法第969条)、遺言公正証書原本が公証役場で保管されるため、偽造・改ざんのリスクの排除と紛失の防止が可能です。遺言者の死後に、相続人等が公証役場に検索を依頼して公正証書遺言の存否を確認することも可能です。
なお、自筆証書遺言書保管制度を利用することにより、自筆証書遺言書の改ざん及び紛失の防止や、遺言者があらかじめ指定した者に対して、遺言者の死亡時に、遺言書が保管されている事実を通知させることも可能です。
遺言執行者を指定することで、相続開始後の財産移転をより確実にすることも可能です。
(3) デメリット
有効な遺言をするためには、所定の様式による必要があります。
遺言では、財産の帰属について決定することができますが、その後の遺言者の意思に沿った管理までさせることはできません。死因贈与契約と同様に、負担を付けることは可能ですが、その実効性は不確実です。

3 遺言代用信託

(1) 概要
遺言代用信託とは、生前に、委託者が信託を活用して、遺言の代わりに財産の承継について定めたうえで設定する信託のことです(信託法第90条)。委託者が生前に信託契約によって信託財産を受託者に引き渡し、受託者が信託財産を管理・運用・処分をすることを通じて、委託者の死亡後に、受益者への財産承継がされます。
(2) メリット
受託者には信託事務遂行義務(信託法第29条第1項)、善管注意義務(同条第2項)及び忠実義務(同法第30条)等が課されており、他方で受益者には取消権(同法第27条)及び差し止め請求権(同法第44条)等の権利が認められており、信託の目的を達成するための法律上の仕組みが用意されています。
遺言代用信託は、通常、委託者の生前に効力を生じさせるものであり、委託者が将来的に認知症にり患する場合に備えた生前の財産管理についても、利用することができます。
遺言信託と異なり、特定の様式による必要はありません。
委託者は、状況や意思の変化に合わせて、原則として受益者や契約条項を変更することができます。
信託財産は、生前に受託者への引渡し・登記移転がされることになるため、信託の内容に反対する相続人の妨害を受けづらい、すなわち委託者の意思をより反映させやすい方法といえます。
(3) デメリット
委託者の生前に遺言代用信託の効力が発生し、財産が受託者に移転するため、それ以後に、委託者は自由にその財産を利用できません。
受託者による信託財産の管理についてのコストが継続的に発生します。
信託行為に別段の定めをしなければ、委託者の地位を相続人が承継し、複雑な法律関係が生じてしまうリスクがあります。

4 遺言信託

(1) 概要
遺言信託とは、委託者が、特定の者(受託者)に対し財産の処分、管理その他の目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法のことです(信託法第3条第1項)。
遺言信託は、遺言者(かつ委託者)の死亡後に、相続人が財産を管理する能力が無い場合等に利用されるものです。
(2) メリット
遺言代用信託と同様に、信託法上、受託者の義務と受益者の権利が定められており、遺言者(かつ委託者)の意図が適切に実現されるための仕組みが法律上用意されています。
財産の移転等の信託の効力が発生する時期は、遺言者(かつ委託者)の死亡後であり、その時までは、遺言者(かつ委託者)自らが、自己名義の財産を処分・使用することができます。
遺言代用信託と比較して秘匿性が高いといえ、遺言者(かつ委託者)の死亡まで、自由に信託の撤回及び修正が可能です。
(3) デメリット
遺言によって受託者を指定しても、その受託者が確実に信託財産の管理等を引き受けるとは限りません。
遺言として要求される所定の様式を満たす必要があります。様式を満たさない場合には、無効となるリスクがあります。
自己の生前に財産承継を行うために、自己が財産の承継に実質的に関与可能である遺言代用信託とは異なり、遺言代用信託では、自己の死亡後に財産承継が実施されることになるため、以下の問題が生じる可能性があります。
遺言者の相続が開始した場合、遺言執行者が相続の開始に気づかず、信託財産が長期間受託者に引き渡されないリスクがあります。受託者の引渡し・所有名義移転がなされるまでの間に、相続人によって勝手に信託財産が処分されてしまうリスクがあります。
なお、遺言信託をする場合には、受託者となる者と遺言者(かつ委託者)が信託の内容について十分な打ち合わせをして受託者を引き受けてもらうこと、受託者を遺言執行者とすることで、適切な信託の利用のための手当てをすることが可能です。

5 まとめ

上記のとおり、各制度の特徴を理解して、自身の目的に合った制度を利用することが重要です。

※本記事の内容について細心の注意を払っていますが、その正確性及び完全性等の保証をするものではありません。本記事はその利用者に対し法的アドバイスを提供するものではありません。したがって、本記事の利用によって利用者等に何らかの損害が発生したとしても、本ウェブサイトの提供者、本記事の著者及びその他の本記事の関係者は、かかる損害について一切の責任を負うものではありません。

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弁護士

早稲田大学法学部卒業
早稲田大学法科大学院修了

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