第37回 自筆証書遺言書保管制度について

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益子 真輝

2021-04-30

第37回 自筆証書遺言書保管制度について

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概要

今回は、令和2年(2020年)7月10日に施行された「法務局における遺言書の保管等に関する法律」について解説していきます。自筆証書遺言書保管制度については、【第7回 自筆証書遺言(その5):自筆証書遺言の新制度】において、既に概要をご紹介しました。もっとも、第7回の記事掲載から、約2年半が経過し、制度についても詳細が明らかになってきましたので、今回は令和3年時点における内容をご紹介します。

自筆証書遺言の問題点とは

自筆証書遺言(遺言者が、遺言書の全文、日付および氏名を自分で書いて、押印する方式の遺言のこと)としての遺言書は、多くの場合、自宅で保管されることが多く、遺言書を紛失するリスクや、相続人らによる遺言書の破棄、隠蔽、改ざんのリスクがあります。そのため、相続人間で揉めないように、せっかく遺言書を作成したにもかかわらず、かえって紛争が生じてしまうことにもなっていました。
そこで、そのような問題に対処すべく、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が施行されました。内容としては、遺言者自らが自筆証書遺言を作成した後に、公的機関(法務局)が遺言書を保管してくれるという制度です。

遺言書の保管の申請手続きについて

(1)今回の自筆証書遺言書保管制度の対象は、自筆証書遺言(民法第968条)のみです。つまり、公正証書遺言及び秘密証書遺言については対象外です。制度の大まかな流れとしては、①遺言書を作成する→②法務局(正確には、法務局に存在する遺言書保管所です。)において遺言書の保管申請を行う→③遺言書を保管してもらう(保管証を受けとる)という流れになります。

(2)まずは、①についてですが、第3回ないし第6回をご参照ください。自筆証書遺言において必要な記載事項について掲載しております。
次は、②についてです。遺言書の保管を申請できる場所は、あらかじめ決まっており、遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所にて行うことができます。申請をすることができるのは、遺言者本人だけです。
その際に必要な書類としては、遺言書、申請書(法務省のホームページなどでダウンロード可能)、添付書類(本籍の記載のある住民票の写しなど)、本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード、運転経歴証明書など)、手数料(1通につき3900円)です。なお、申請をする際、法務局職員(遺言書保管官)は、民法の定める自筆証書遺言の方式についての審査は、外形的な確認(全文、日付及び氏名の自書、押印の有無等)を行うのみで、内容についての審査は行われず、質問・相談をすることもできません。そのため、自筆証書遺言書保管制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません。
③についてですが、手続きが完了すると、遺言者の氏名、出生の年月日、遺言書者保管所の名称及び保管番号が記載された保管証が発行されます。

預けた遺言書に関する制度について

(1)まず、遺言者が死亡する前の時点における制度について解説していきます。
遺言者本人に限り、保管されている遺言書について閲覧請求をすることができます。逆に言えば、遺言者以外の者は閲覧請求をすることはできません。なお、閲覧できる場所ですが、原本の閲覧は、預けた遺言書保管所でのみ可能ですが、電子データであれば、全国どの遺言書保管所でも、閲覧請求をすることができます。
遺言者本人は、保管の申請時以降に氏名、住所等に変更が生じたときには、遺言書保管官にその旨を届け出る必要があります。また、遺言書の内容について変更したい場合には、預けた遺言書を撤回し、遺言書の内容を変更してから、再度保管の申請を行うか(法務省が推奨している方法です。)、撤回をせずに新たな遺言書を預ける方法があります。
次に、遺言者本人に限りますが、遺言者が預けた遺言書を返還してもらう、つまり、保管の申請の撤回をすることができます。もっとも、遺言書保管所で保管しているものを返還してもらうだけですので、遺言の効力自体に影響は及びません。保管の申請が撤回されると、遺言書保管官は、遺言者に遺言書を返還するとともに遺言書に関する情報を消去することになります。

(2)次に、遺言者が死亡した後の制度について紹介します。
遺言者の死亡後においては、相続人等が、遺言書が預けられているか否かを確認することができます。逆に言えば、遺言書が預けられているか否かを確認できるのは、相続人、遺言執行者等、受遺者等などに限定され、誰でも確認できるわけではありません。
同様に、遺言者の相続人、受遺者等は、遺言の内容についての証明書(遺言書情報証明書)の発行や、遺言書原本の閲覧を請求することができます。なお、遺言書保管所に保管されている遺言書については、 遺言書の検認(民法第1004条第1項)の規定は、適用されません。つまり、検認は不要です。
また、遺言書保管官は、遺言書情報証明書を交付した場合や、相続人等に遺言書の閲覧をさせた場合には、速やかに、当該遺言書を保管している内容の通知を、遺言者の相続人、受遺者及び遺言執行者に対して行います。

自筆証書遺言と公正証書遺言の比較

(1)自筆証書遺言(民法968条)については、遺言者本人が遺言書のすべてを作成し、日付及び氏名を自書さえできれば、一人で作成することができます。そのため、費用もほとんどかかりませんし、遺言書の内容のみならず、存在も隠すことができるメリットがあります。
一方、デメリットとして、①方式不備で無効になる危険性が大きい(とりわけ、加減・訂正を行っている場合などです)、②遺言書が発見されない危険性や偽造・変造される可能性がある、③遺言書の紛失や他人による隠蔽・破棄の危険性がある、④家庭裁判所による検認手続が必要とされる(民法1004条)、⑤視覚障害者にとって利用しづらい方式などがあげられます。
もっとも、今回の自筆証書遺言書保管制度を利用することで、前記のとおり、自筆証書遺言のデメリットの②~④については回避することが可能です。

(2)公正証書遺言についてのメリットとしては、①専門家である公証人が関与して作成するため、方式不備などの可能性がほとんどない、②遺言書は、公証役場に保管されるので、偽造・改ざんの危険性が少ない、③家庭裁判所での検認手続きをとらずに遺言内容の実現をすることができる。
一方、デメリットとしては、①遺言書作成の費用がかかる、②遺言の存在と内容を秘密にしておくことができないなどが挙げられます。
(3)以上のことを踏まえると、以下のことが言えます。
今回の自筆証書遺言書保管制度を利用することで、自筆証書遺言のデメリットである前記の②~④については克服できます。もっとも、遺言書の内容については、公正証書遺言とは異なり、遺言保管官によるチェックを受けることはできませんし、相談することもできません。
そのため、なるべく費用を抑える形で、遺言書の内容を専門家によるチェックがなされなくても問題なく、遺言書の存在及び内容について他人に秘密のままにしたいという場合には、自筆証書遺言を作成した上で、今回の自筆証書遺言書保管制度を利用すると、公正証書遺言よりもより安価に遺言書を作成し、遺言書の存在及び内容についても秘密にすることができます。
一方、公正証書遺言については、遺言書の存在及び内容が開示されることも許容でき、費用をかけてでも、専門家である公証人が関与する形で遺言書を作成したいという場合には、公正証書遺言を選択することが考えられます。
それぞれの遺言制度にはメリット・デメリットがありますので、それらを把握したうえで、遺言者が遺言を作成する際に、最適な方法を選択していくことになるでしょう。
以下、今回参照した民法の条文です。

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

(遺言書の検認)
第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 略
3 略

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益子 真輝

同志社大学法学部法律学科卒業
神戸大学法科大学院修了

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