第6回 危急時遺言

第6回 危急時遺言

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前回まで、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の3種類の遺言の話をしてきましたが、これらの遺言は「普通の方式」に分類され、あらかじめ自分の意志で準備・作成していくものであり、実際にこれらを用意する人は、終活にじっくり時間をかけて進めている方です。
一方、遺言の必要性は理解していても、自分の身にはまだ何事も起こらないだろうと高を括っている人もまだまだ多いと思います。しかし、自分の人生がこの先どうなるかということは誰にも分かりません。突如予想もしなかった危急の状況になったとき、「想い」を伝える遺言を残すことはもはや出来ないのでしょうか?

実は、方法はあるんです。ここで出てくるのが「特別の方式の遺言」というものです(民法976条)。普通があれば特別もある、ということですね。この特別の方式の遺言には2つに分類されており、一つが「危急時遺言(一般危急時遺言と船舶遭難者遺言)」、もう一つが「隔絶地遺言(一般隔絶地遺言と船舶隔絶地遺言)」といいます。

このうち「一般危急時遺言」についてですが、病気やケガなどの事情により自分の命の危険が差し迫った時(これを危急時と言います)に、自分でしっかり字を書いて押印して・・・、もしくは、公証役場に足を運んで(または公証人に来てもらって)・・・、なんて悠長に行動する事は出来ませんよね?そこで「特別の方式の遺言」においては、①3人以上の証人(推定相続人は証人になれない、などの条件があり)が立会い、②その1人に「遺言の趣旨」を口授し、③口授を受けた者がその内容を筆記して遺言者および証人に読み聞かせるか閲覧させ、④各証人がその内容が正しい事を承認した後に署名と押印をすることによって遺言書を作成したこととすることができます。これが一般危急時遺言です。この方法は被相続人のみならず、推定相続人も知っておいた方がいい方法だと思います。
ちなみに、「危急時」というのは「命の危険が差し迫った」という意味なのですが、これは必ずしも客観的に証明する必要はなく、遺言者自身が「命の危険がある」と考えていればよい、とされています。

さて、一般危急時遺言についての判例をご紹介します。 

<判例>

Xらは被相続人Aと先妻との間に生まれた子であり、YはAの後妻である。
Aは病気による入院中に自らの死期を悟り、AはYに対して遺産の全てをYに与える旨の遺言書の作成を指示した。YはB弁護士に相談の上、危急時遺言の作成手続きを執り、B弁護士がYから聞き取った内容を基に遺言書の草案を作成した。
D医師を含む医師3名はB弁護士が作成した遺言書の草案の交付を受け、Aの病室を訪ね、その草案の内容をAに読み聞かせたところ、一つ一つの内容に関する確認に対して「はい」と答え、最後にAから「宜しくお願いします」との返答を得たため、遺言書を作成した。
Xらは、Aが自ら作成したものではない遺言書の草案を読み上げられて、積極的な意思表明をしていないから、遺言者の口授があったとはいえない、として訴えを提起した。

この問題では、あらかじめ作成された原稿を読み上げて、遺言者の意思を確かめることは、民法976条の「口授」といえるか、ということが争点となりました。たしかに当初被相続人AからYに対して遺産に関する口授があった際に、利害関係者である後妻のほかに立会人がいなかったため、その部分だけをとらえればそのように見えますね。

しかし、判旨では草案の一つ一つの内容に「はい」などと返答し、最終確認の際に「宜しくお願いします」と答えていることにより、「口頭で草案内容と同趣旨の遺言をする意思を表明し、遺言の趣旨を口授したものというべきであり、本件遺言は民法976条所定の要件を満たすものということができる」としました(つまり法律的に有効)。

このような判例となったのは、やはり専門家にしっかりと相談して対応できたからこその結果なのかもしれませんね。

普通の話をしていても、「それ知っている!」と答えられるかもしれませんが、「特別」の話をすると、グッと興味を引いていただけると思います。終活の話の話題において、脇道にそれた話を出すことできっと興味を引き出すこともできます。
ドラマなどで突然死の淵に立たされた人が、最期の言葉を振り絞って話をする(口授する)場面がありますよね。あれって法律的に遺言として認められるのでしょうか?
その場面で、要件を満たした立会人が3人以上いる?口述した内容を筆記して確認している?など、それが遺言として法律的に成立するように描かれているのか、もしくはただの伝言となるべきものなのか・・・。そんな風にいつもと違った視点で観てみるのもいいかもしれませんね。
 

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