第14回 遺言が無効となる場合

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酒井 勝則

2019-06-07

第14回 遺言が無効となる場合

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はじめに

 前回までに、遺言の様々な方式(普通の方式、特別の方式)や遺言に共通する要件などをご紹介してきましたが、今回は、遺言の無効についてご紹介します。遺言の無効とは、文字通り、遺言としての法的な効果がなく、遺言書記載の遺産の贈与などが実現しないことを意味します。遺言が無効となる場合としては、様々な整理方法がありますが、主として、遺言の方式に違反があるもの、遺言能力を欠くもの、そして遺言の内容に問題があるものの三種類に分類することができます。また、遺言の内容に問題があるものとしては、遺言内容が公序良俗に反する場合、遺言内容を解釈によって確定できない場合、遺言事項に該当しない場合の三種類に分類されます。
 以下、個別に遺言が無効となる場合について説明していきます。 

遺言の方式に違反がある場合とは?

 これまでご紹介してきましたとおり、遺言には、普通の方式による遺言(自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言)と特別の方式による遺言(危急時遺言、隔絶地遺言)がありますが、いずれの方式による遺言でも民法上厳格な方式を守ることを求められています。これは、遺言が、遺言者の最終的な意思の実現を保証する制度であり、相続人等多数の利害関係人がいることからも、遺言者の真意をきちんと確保し、遺言内容の偽造等を防止する必要があるからです。
 遺言の方式に違反がある場合の民法上の規定は、以下のとおりです。

(遺言の方式)
第九百六十条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。


 上記規定は、遺言を、当事者の自由な方式によることを禁止して、民法の定める方式に従うことを定める規定です。その裏がえしとして、民法に定められた方式に違反した遺言は、無効になることをも示しています。 

遺言能力を欠く場合とは?

 遺言能力を欠く場合の民法上の規定は、以下のとおりです。

(遺言能力)
第九百六十三条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
第九百六十一条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。


 上記規定の「能力」のことを遺言能力といい、これには確定的な定義はありませんが、本人が遺言をするに当たり、その遺言の内容及びその遺言の結果生じる法律効果を理解し判断できる能力と整理することができます。遺言者の死亡後、この遺言能力が欠けているという理由が主張されて、遺言書の効力が争われる場合が少なくありません。特に、高齢者が作成した遺言について、遺言能力が否定されて、無効と判断されたケースも存在します。
 また、民法は、原則として20歳以上(改正民法が施行される2022年4月1日以降は、18歳以上)の者に行為能力(単独で契約を締結したりできる資格をいいます。)を認めていますが、遺言の場合は、行為能力にかかわらず15歳以上の者に遺言能力が認められています。 

遺言内容に問題がある場合とは?

 遺言の内容に問題がある場合とは、冒頭で説明したとおり、遺言内容が公序良俗に反するような内容である場合、遺言の内容を解釈によって確定できない場合、遺言事項に該当しない場合があります。
  

遺言内容が公序良俗に反する場合とは?

 遺言内容が公序良俗に反する場合とは、遺言書に記載された内容が法令に違反するものや法令に違反しないまでも社会通念上著しく相当性を欠く場合のことをいいます(民法第90条)。これが問題となった事例としては、遺言者である夫(父)が、遺産3分の1を不倫関係にあった女性に贈与するという内容の遺言の有効性が争われたものがあります。当該事案では、女性への贈与が不倫関係の維持ではなく当該女性の生活の保全を目的としていたことや、当該遺贈によって相続人の生活の基盤が脅かされるとはいえない等の事情を考慮して、公序良俗違反には当たらないという判断が下されました。 

遺言内容が遺言の解釈によって確定できない場合とは?

 遺言の内容が、遺言の解釈によって確定できない場合とは、遺言書の文言が不明確であったり、多義的であったりする場合のことをいいます。この場合、遺言書に記載された内容から遺言者の真意が探求され、かつ可能な限りその効力を維持するように解釈されるべきとされています。このような解釈が施される理由は、遺言が遺言者による最後の意思表示であり、できるだけ遺言者の意思を反映させてあげるべきと考えられているからです。遺言者の真意の探求のためには、遺言書の文言はもちろんのこと、遺言書作成当時の事情や遺言者が置かれた状況なども判断材料として考慮されます。遺言を解釈することで、最終的に遺言の内容を特定することができれば、遺言は有効となり、遺言を解釈してみても、なお、意味が不明であるような場合には、無効となってしまいます。 

遺言内容が遺言事項に該当しない場合とは?

 遺言事項に該当しない場合とは、民法上遺言によることができると規定されていないことを遺言の内容とした場合のことをいいます。これは、遺言でどんな行為でも自由にできるとすると相続人等多くの利害関係人に大きな影響を及ぼすため、遺言によってなし得る行為が、相続の法定原則を修正する事項や、身分関係に関する事項等、一定の事項に限定されています。
遺言によることができる身分関係に関する事項の一例として、認知があります。

(認知の方式)
第七百八十一条 認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。
2 認知は、遺言によっても、することができる。


 本稿では、認知の具体的な説明は省略しますが、上記の認知の規定のように、遺言でなし得る事項は法律上明確に定められており、この遺言事項以外について遺言で意思表示したとしても、法律上の効力は生じません。

 以上のとおり、遺言が有効となるためには、遺言の方式に違反しないことに加え、遺言の内容自体も民法の規定に違反しないようにする必要がありますので、形式面・内容面のいずれにも注意をしていただく必要があります。
 次回は、遺言の撤回について検討します。 

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酒井 勝則

東京国際大学教養学部国際関係学科卒、
東京大学法科大学院修了、
ニューヨーク大学Master of Laws(LL.M.)Corporation Law Program修了

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