第7回『2018年9月12日東京地裁判決について』

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小林 智

2019-06-11

第7回『2018年9月12日東京地裁判決について』

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民事信託・家族信託での遺留分に関する判決

「やはり!」というか「ついに!」というか・・・
民事信託・家族信託について、2018年9月12日に東京地裁で判決がありました。
この判決については、信託設定が遺留分制度を潜脱する意図があったとして公序良俗に反し、信託契約の一部を無効とするというもので、いろいろ議論されてきていますがここでは詳しい内容には触れません。
今回の判決内容を議論する以前の問題として、クライアントに信託を提案し採用いただいた以上、訴訟に発展した時点で、信託を提案した専門家の責任は重大でしょう。
資産承継をうまく乗り切る目的で信託が活用された訳ですが、信託はスキーム構築する人によって、効果的なスキームにもなりますが、逆に余計に揉めさせてしまうスキームにもなり得るということが今回の件で明確になりました。
クライアントにとっては揉めて訴訟になることで、経済的にも時間的にも精神的にも負荷がかかってしまうことになりますので、むしろ何もやらなかった方が良かったかもしれません。 
 

民事信託・家族信託に潜むリスクを検証すること

訴訟にまで発展する原因はどこにあるのか?
昨年5月のコラム②でお話しさせていただいたことが実際に起き始めている訳です。
重要なポイントだけをコラム②から抜粋します。
【以下抜粋】
『信託コンサルは信託の単独知識だけでは難しく、相続等の周辺知識も必要だということです。そこが今の民事信託・家族信託にはやや欠落しています。将来、家族問題を引き起こす種が安易な信託スキーム構築によってばらまかれていることに懸念を抱かずにはいられません。
2点目です。信託スキームを構築するにあたっては信託の実務経験がないと難しいと思っています。限りなく実務目線で物事を見ていなければ気付かないところで甘さが出てしまいます。今の民事信託・家族信託は第三者がチェックをする訳でもありません。信託銀行であれば監督官庁の検査が定期的に入りますが、民事信託・家族信託はどこからもチェックを受けず欠陥を指摘されないまま広がっています。実務を通してしか見えず、机上ではいつまで経っても見えてこないことも数多くあります。それがいつ明るみに出るかというと将来問題が発生してからです。今の時点では欠陥があるかどうかは関係者の中ではわからないので余計にタチが悪いと思っています。』
【抜粋終わり】

コラム②で指摘させていただいたように適正なチェックがなされることなく家族信託スキームが構築されているところに問題があります。信託はまだまだ一般的になじみがないために、被相続人の財産が信託されていた場合、他の相続人が信託について知らなければ不信感や猜疑心をあおるだけです。その結果、相続人の間で揉めるリスクが極めて高くなります。この点をもっと強く意識すべきなのですが、家族信託の現状としてはかなり甘く見ている感じがしています。

 適正なチェックが入っていればある程度は将来のリスクは避けられるはずです。
信託銀行で信託スキームを構築から信託契約締結まで実務的に携わってきた経験でお話しさせていただくと、信託銀行では法務部門やコンプライアンス部門からチェックが入り、問題が発生しそうな場合は「他の相続人も信託契約について知っているのか?」「信託設定することで遺留分の問題に発展しないか?」等の吟味が行われ、案件によっては覚書や念書を提出させるなどのことが行われ、信託を活用した方が果たして良いのかどうかという検証が行われたりします。
家族信託ではこのチェック機能が働いてないはずです。そういうチェックが行われていない家族信託は潜在的リスクが検討されていないため砂上の楼閣と言わざるをえないでしょう。
今回の訴訟は第三者のチェックを受けていない家族信託スキームがいかに脆かったか露呈してしまった一例だと思っています。
ここ数年で組成された家族信託については、時間の経過とともに委託者の方の相続が発生するにつれて、訴訟になっていく事案が今後ますます増えてくると思っています。

 信託を提案する専門家の方は第三者にチェックを依頼することまではしないまでも、民事信託・家族信託のスキーム構築時に将来の潜在的リスク等を徹底的に吟味してから構築することをお勧めします。
エンドユーザーの方は信託スキームの提案者に幾つか質問をしてみて下さい。その場で即答できなければ実務経験が乏しいと判断して、その提案者から信託の提案を受けないという判断を下しても良いと思います。
特に信託は理論と実務には隔たりがありますから、理論でわかっていても実務経験が乏しければ角度の違う質問をされてしまえば戸惑うばかりで答えられないという場面を何度も見てきました。知識と経験は全く別物ということです。
今一度、信託を組成する場合は財産の一部だけにとらわれず全体像を俯瞰的に見て、さらに信託スキームが引き金となり将来揉めるようなリスクが潜んでないかどうかを検証することこそスキーム構築以上に重要なのではないでしょうか? 
 

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小林 智

1990年山一證券入社。山一證券の自主廃業後、外資系保険会社を経て、みずほインベスターズ証券(現みずほ証券)プライベートバンキング部の立ち上げに参画。その後、フランス資本のソシエテジェネラル信託銀行、独立系の富嶽信託(管理型信託、関東財務局長[信]第7号)取締役、スイス資本のロンバー・オディエ信託を経て独立。
現在は民事信託のコンサルに特化。
14年間プライベートバンカーとして富裕層向け相続・信託コンサルティング実務経験豊富。民事信託コンサル実績多数。
CFP、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士

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