第3回 遺言代用信託

第3回  遺言代用信託

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1 遺言代用信託

遺言代用信託とは、委託者が信託を活用して、遺言の代わりに財産の承継について定めたうえで設定する信託のことです(信託法第90条参照)。
遺言代用信託は、遺言や死因贈与と類似する機能を有し、生前の契約により、自身の死亡後の財産の分配を行うことができます。

2 遺言代用信託の特徴

委託者が生前に信託契約によって信託財産を受託者に引き渡し、受託者が信託財産を管理・運用・処分をすることを通じて、委託者の死亡後に、受益者への財産承継がされるところに、遺言代用信託の特徴があります。

3 遺言代用信託と遺言信託との比較

1) 遺言信託
遺言信託(遺言による信託)によって行うのは、あくまでも死後の財産処分です(詳細は第2回 遺言による信託を参照)。
遺言信託は、遺言者の死亡のときから効力を生じることになるため、信託財産は委託者の死亡した後に受託者に移転することになります。そのため、死後に遺言の執行手続が必要になり、その過程で、利害関係人による紛争が生じやすい面があります。
(2) 遺言代用信託
遺言代用信託を活用することで、生前の契約により自身の死亡後の財産の分配を行うことができます。
つまり、遺言代用信託によれば、委託者の信託財産を、委託者の生前に委託者自身が契約を締結することによって受託者に移転できるため、委託者が自己の財産をどのように処分するかという意思をより確実に反映させることができ、利害関係人による紛争も生じにくいと言えます。

4 活用例

ケース

高齢の単身者Aには2人の子、BとCがいて、Aの財産は、持家と銀行預金のみです。Aは自身の判断能力の低下が心配で、財産管理に自信が無くなってきました。そこで、Aは、自身の生存中は持家に住んで銀行預金を自分の生活のために使い、自身の死亡後にBとCにその財産を承継させたいと考えています。Aは、BとCが既に自分の持家を所有していて、Aの持家が不要であること、Aの持家の利用や処分についてBとCとの間で紛争が発生することを防止したいため、持家の売却後にその代金を銀行預金と合わせてBとCに平等に分配したいと考えています。

このAの要望を実現するために遺言代用信託を活用することが考えられます。
具体的には、①Aが委託者として、Bを受託者とする信託を設定する、②信託の目的を受益者の幸福な生活と福祉の確保及び次世代への円滑な資産承継とする、③信託財産はAの持家と銀行預金とする、④Aが死亡するまではAを受益者とし、A死亡後はB及びCが2分の1ずつの受益権を取得する、⑤Aの持家の売却によって信託が終了し、2分の1ずつの割合で残余財産をB及びCに帰属させるという、遺言代用信託を設定することで、Aの生前の財産管理の委託、Aの生活のための財産の利用(Aが持家に居住することを含む)、Aの死後の持家の売却及びその売却代金を含めた財産の2分の1ずつの分配をするための仕組みをつくることができます。Aは生前に、受託者Bに対して財産の引渡し等を完了させ、受託者Bとの間で財産の管理・利用について十分に相談することで、より確実に自身の目的の実現を図ることができます。

他方で、遺言信託では、Aの死後の財産分配のみが対象とされるため、Aの生前の財産管理については設定されないことになります。また、前述のとおり、遺言信託を利用した場合、Aの死後に遺言の執行手続が必要になり、その過程でBC間の紛争が生じやすいというデメリットがあります。

このように、遺言代用信託は、生前及び死後の両方における、財産の管理及び承継をより確実に行うための、便利な選択肢の一つだと言えます。

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弁護士

早稲田大学法学部卒業
早稲田大学法科大学院修了

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