第7回 相続放棄者の相続財産保存義務(その1)

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山下 昌彦

2024-05-24

第7回 相続放棄者の相続財産保存義務(その1)

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1 はじめに

相続の放棄とは、相続人が、故人である被相続人の財産を相続する一切の権利を放棄することを意味します。
(過去の記事:
https://egonsouzoku.com/magazine/magazine-107/

前回の記事でも若干触れましたが、相続人が相続を放棄したとしても、それですべて終わりというわけではありません。場合によっては、放棄した相続財産を管理しなければならないことがあります。

2 相続放棄者の相続財産保存義務

相続放棄者による相続財産の保存義務については、民法第940条が規定しています。

第九百四十条(相続の放棄をした者による管理)
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

(1) 相続放棄者はどのような場合に義務を負うのか?

民法第940条によると、相続放棄者が「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に義務を負うことになります。
なお、上記の民法第940条は、令和5年4月1日に施行された改正法になります。施行前の旧民法第940条には、「現に占有しているときは」という文言がありませんでしたので、改正前は相続財産を実際に占有していない相続放棄者も管理責任を負わなければなりませんでした。

(2) 保存義務を負う相続放棄者は、いつまでその義務を負うのか?

民法第940条によると、「相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間」相続放棄者は保存義務を負うことになります。
すなわち①他に相続人がいる場合は、他の相続人へ相続財産を引き渡すまで、②他に相続人がいない場合は、相続財産清算人に引き渡すまで、保存義務を負うことになります。

(3) 保存義務は具体的にどのような義務か?

民法第940条によると、「自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」とされています。注意義務の程度としては、自己の財産と同一の注意で足り、善良な管理者による注意義務までは求められていません。
また、保存義務の具体的な内容としては、①当該相続財産の現状を滅失させ、又は損傷する行為をしてはならない点について争いはありませんが、さらに②財産の現状を維持するために必要な行為をすることまでは求められていない、というのが多数説です。

(4) 具体例

第7回 相続放棄者の相続財産保存義務(その1)の画像

※ 事例①
上記の図で父が死亡。法定相続人である母(父の所有する家屋に同居)及び子(父母とは別居)のうち、母のみが相続放棄した。

本事例①の場合、相続放棄時に父の所有する家屋に同居していた母は、「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に該当するため、民法第940条に基づく相続財産保存義務を負います。
そして、相続放棄をしなかった子が父の相続人として父の所有していた当該家屋を相続することになりますので、母は、子に対して当該家屋を引き渡すまで当該家屋の保存義務を負うことになります。

※ 事例②
上記の図で父が死亡。法定相続人である母(父の所有する家屋に同居)及び子(父母とは別居)が共に相続放棄した。なお、母及び子による相続放棄によって法定相続人となる第二順位以降の相続人はいないものとする。

本事例②の場合も、事例①の場合と同様に、相続放棄時に父の所有する家屋に同居していた母は、「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に該当するため、民法第940条に基づく相続財産保存義務を負います。
もっとも、本事例②では、子も相続放棄をしており、かつ、母及び子による相続放棄によって法定相続人となる第二順位以降の相続人がいないため、母は、相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまで当該家屋の保存義務を負うことになります。

以 上

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弁護士

京都大学法学部卒業
甲南大学法科大学院修了

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