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2021年最初のお役立ち情報です。
今回は、遺産分割協議のやり直しについての第二回です。一度成立した遺産分割協議について、何らかの理由により遺産分割協議をやり直したいと考えた場合、やり直しが認められるでしょうか。
CASE2
Aには妻Bと子CDEがいる。Aは以下の遺言を遺し死亡した。「甲土地につき、北150坪をCの所有地とし、南180坪をDEの折半とする。」。ところが、相続人らは、遺言の存在を知らずに、妻Bが甲土地を単独で相続する旨の遺産分割協議を行った。その後、子Cは遺言書を発見した。子Cは遺産分割協議をやり直したいと考えているが、やり直すことができるか。
遺産分割協議の取消し
CASE2のように、遺言書があるとわかっていれば行わなかった遺産分割協議をやり直すことができるでしょうか。
遺産分割協議は、相続人全員で行われる一種の契約であるため、錯誤(民法95条)、詐欺(同法96条)、強迫(同条)などの規定の適用があることには異論がありません。
(錯誤)
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、 その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2~4 略
(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。2~3 略
判例(最判平5・12・16判時1489・114)は、CASE2の類似事例において、以下のように判示しています。
「相続人が遺産分割協議の意思決定をする場合において、遺言で分割の方法が定められているときは、その趣旨は遺産分割の協議及び審判を通じて可能な限り尊重されるべきものであり、相続人もその趣旨を尊重しようとするのが通常であるから、相続人の意思決定に与える影響は格段に大きいということができ、Aの遺言は、土地の分割方法をかなり明瞭に定めているということができるから、子Cらは、Aの遺言の存在を知っていれば、特段の事情のない限り、本件の土地を妻Bが単独で相続する旨の遺産分割協議の意思表示をしなかった蓋然性が極めて高いものというべきである。」。
そして、上記判例は、当該遺産分割協議に錯誤がないとは言えない旨判示しました。
もっとも、上記判例は、遺言の存在を知らずにした遺産分割協議の意思表示には錯誤があるという一般論を述べたものではありませんので注意が必要です。遺言書の内容によっては、遺産分割協議の内容との相違の程度が小さい場合なども考えられるため、事実関係の相違に応じた事案ごとの判断がなされることが考えられます。
したがって、思い違いなどにより遺産分割協議を行ってしまった場合、その遺産分割協議を取り消してやり直すことができるかについては、事例ごとの判断が必要になりますので、一度専門家に相談してみるのがよいでしょう。
CASE3
Aには妻Bと子CDEがいる。Aが死亡しB~Eで遺産分割協議が行われた。ところが、遺産分割協議が成立してから1年後、Aの遺産が漏れていたことが発覚した。Bらは遺産分割協議をやり直すことができるか。
遺産が漏れていた場合の遺産分割協議の効力
遺産分割は、民法906条の分割基準による適正妥当な分割を実現するために、すべての遺産を一回で分割するのが原則です。
(遺産の分割の基準)
第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、 各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
しかし、後日遺産が発見された場合には、その財産について追加的に遺産分割を申し立てれば足りるとする判例(東京高決昭54・2・6判時931・68)や、遺産の一部分の分割協議を有効とするためには相続人間において当該部分と残余部分とを明確に分離した上分割するとの合意の存在が必要とする審判例(福岡家小倉支審昭56・6・18家月34・12・63)がありますので、遺産が漏れていた部分について遺産分割協議を行うことも可能とされています。
もっとも、重要な遺産が漏れていた等、遺産全体につき再分割協議を必要とする特別な事情がある場合には、先に行われた遺産分割協議を無効とし、遺産分割全体をやり直すことができる場合もあると考えられています。
以上
遺産分割は、民法906条の分割基準による適正妥当な分割を実現するために、すべての遺産を一回で分割するのが原則です。
(遺産の分割の基準)
第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
しかし、後日遺産が発見された場合には、その財産について追加的に遺産分割を申し立てれば足りるとする判例(東京高決昭54・2・6判時931・68)や、遺産の一部分の分割協議を有効とするためには相続人間において当該部分と残余部分とを明確に分離した上分割するとの合意の存在が必要とする審判例(福岡家小倉支審昭56・6・18家月34・12・63)がありますので、遺産が漏れていた部分について遺産分割協議を行うことも可能とされています。
もっとも、重要な遺産が漏れていた等、遺産全体につき再分割協議を必要とする特別な事情がある場合には、先に行われた遺産分割協議を無効とし、遺産分割全体をやり直すことができる場合もあると考えられています。
以上