第33回 配偶者の居住の権利(その5):配偶者居住権⑤

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新留 治

2021-01-12

第33回 配偶者の居住の権利(その5):配偶者居住権⑤

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はじめに

前回、被相続人(遺言者)の妻又は夫である配偶者(以下、「配偶者」といいます。)の居住の権利である「配偶者居住権」の効果についてご紹介しました。
配偶者居住権の成立要件は、従前ご説明したとおり①配偶者が被相続人の死亡時に被相続人の所有する建物に居住していたこと、②その建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割や遺贈がなされることの二つで、これらの要件を充足することで、配偶者は、配偶者居住権を取得することになります。配偶者居住権の基本的な効果は、前回ご紹介したとおり、居住建物所有者の受忍のもと、一定の範囲内で居住建物を使用又は収益することを可能とする権利であり、あわせて当該権利の譲渡や所有者の承諾なく第三者に使用させることを制限すること等をいいます。このような効果に加えて、配偶者居住権には、居住建物の所有権の取得に代えて、別の財産を取得することができるという経済的メリットがあります。
そこで以下では、配偶者居住権における上記メリットについて、具体例も交えつつ述べていきたいと思います。また、これに関連して配偶者居住権の評価方法についても簡単にご説明いたします。

配偶者居住権に関する別の財産取得のメリットについて

配偶者居住権は、そもそも、昨今の高齢化社会の進展及び平均寿命の伸長に伴い、被相続人の死亡後にも配偶者が長期間にわたり生活を続けていくという場面が多くなり、被相続人の死亡による遺産分割の場面において、配偶者としては、従前住んでいた住居での生活を確保しつつ、その後の生活資金として預貯金等の財産についても一定程度確保したいという希望を有する場合が多いという実情を踏まえて、居住建物の所有権という高額な財産を取得せずに、居住建物で居住することを目的としたものとなります。
 例えば、相続人が被相続人の配偶者及び子の合計2名の場合で、遺産が預貯金2000万円、評価額3000万円の自宅土地建物のみ、遺産分割を法定相続分に従うというシンプルな事例を想定します。
 この場合の各人の法定相続分は、以下のとおりです。

配偶者=2500万円(5000万円×1/2)
子=2500万円(5000万円×1/2)

仮に配偶者が、自宅に今後も居住するために、自宅土地建物の所有権の全ての取得を求める場合、3000万円の自宅土地建物を取得する配偶者は、子に500万円を支払わなければならないということになります。そして、500万円の支払の目途がたたず、子も500万円の取得を諦めないとなると、配偶者は、自宅土地建物の取得を諦めざるを得ない(自宅土地建物を売却することによる捻出等)ということになります。また、仮に500万円を支払う目途がたったとしても、配偶者は、自宅土地建物以外の遺産を何ら取得することができないという問題も生じます。
 配偶者居住権は、まさにこのような事例で、配偶者が追加で支払をすることなく、かつ預貯金等の別の財産も取得することができるようにしつつ、居住建物での居住を実現することにあります。
例えば、上記と同様の事実関係に加え、配偶者居住権の評価額が1000万円と評価され、自宅土地建物の配偶者居住権付の所有権(3000万円-1000万円=2000万円)を子が取得するという場合、配偶者の持ち分は、2500万円と変わらないため、1000万円の配偶者居住権に加え、預貯金1500万円を取得することができることになります(子は自宅土地建物の配偶者居住権付の所有権2000万円+預貯金500万円を取得することになります。)。

配偶者居住権の評価額について

上記の事例では、自宅土地建物の評価額を3000万円、配偶者居住権の評価額を1000万円、自宅土地建物の配偶者居住権付の所有権を2000万円としましたが、配偶者居住権の評価額の計算には、複数の方法が考えられます。
 その計算方法の一つとして、公益財団法人日本不動産協会連合会は、配偶者居住権の評価方法の1つの在り方として、配偶者居住権の価額は、「居住建物の賃料相当額」から「配偶者が負担する通常の必要費」を控除した価額に存続期間に対応する年金現価率を乗じた価額であるとする考え方を提示しています。この考え方は、専門家である不動産鑑定士によって考案されたもので、共同相続人間で配偶者居住権の評価額について争いがある場合に、当該評価方法を用いることが想定されています。
 もっとも、専門家以外の方には、上記の「賃料相当額」の算定や年金現価率の設定が困難となります。そこで、特に共同相続人間の遺産分割協議によって遺産分割をする場合には、より簡便な算定方法を用いることも考えられます。この点、法務省(法制審議会民法(相続関係)部会)では、簡易な評価方法が提示されており、①「居住建物及び敷地の現在価値(=固定資産税評価額)」から②「配偶者居住権の負担付所有権の価値」を控除することで算出されます。②の計算方法は、以下のとおりです。

  固定資産税評価額×(法定耐用年数-(経過年数+存続年数)) /(法定耐用年数-経過年数)×ライプニッツ係数

 各項目の概要としまして、法定耐用年数は、構造・用途ごとに規定されており、木造の住宅用建物は22年、鉄筋コンクリート造の住宅用建物は47年と定められています。存続年数は、配偶者居住権の存続期間が終身である場合には、簡易生命表という平均余命を記載した表に基づき、平均余命の値を使用するものとされています。ライプニッツ係数は、将来取得する経済的利益を現在価値に引き直す際に計算する係数であり、平均余命の年数に応じて値が定まることになります。これらの項目を実際の居住建物の事例にあてはめることで、比較的簡易に配偶者居住権の評価額を算出することが可能となります。
 また、相続税法上の配偶者居住権の評価方法も存在し、遺産分割協議の場面では、当該相続税法上の評価方法を用いるということも考えられます。

 配偶者居住権の効果の内、配偶者居住権を取得することによる経済的メリット及び評価方法に関する説明は以上になります。次回も、配偶者居住権の効果についてご紹介します。

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新留 治

神戸大学法学部卒
神戸大学法科大学院修了

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