第32回 相続と未成年者

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熊本 健人

2020-10-20

第32回 相続と未成年者

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今回は、相続人の中に未成年者がいる場合の具体的な手続きについてお話します。

<CASE>
Aには妻Bと未成年の子Cがいる。Aには不動産や預貯金がある。ところが、Aが突如、事故で亡くなってしまう。妻Bは未成年者Cとの間で遺産分割協議を行いたいと考えている。なお、遺言書は作成されていない。

親権者と未成年者の利益が相反する場合

親権者は未成年者に代わり、未成年者のために法律行為を行う権限(代理権)を有しています(民法818条・824条)。

(親権者)
第八百十八条 成年に達しない子は、父母の親権に服する。
2 略
3 略

(財産の管理及び代表)
第八百二十四条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

ところが、上記CASEのように、親子がともに相続人となる遺産分割の場面では、親子の利益が相反することになります。つまり、親権者が自分の利益のことだけを考え、自身の相続分を多く定めると、必然的に子の相続分は少なくなり利益が相反します。このような利益相反関係は、親権者が複数の未成年者を代理して遺産分割協議を行う場合や、親権者の債務を担保するために未成年者が所有する不動産に抵当権を設定する場合、相続人である親権者が未成年者についてのみ相続放棄の手続きを行う場合などにも生じます。このように、親権者と未成年者の利益が相反する場面では、未成年者の利益を保護する必要があるため、家庭裁判所に対して未成年者に対する特別代理人の選任を請求することが求められています(民法826条)。

(利益相反行為)
第八百二十六条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

特別代理人選任の具体的な手続き

では、特別代理人の選任手続きを具体的にはどのように行うのでしょうか。
 特別代理人の選任の請求を行うことができる者は、親権者と利害関係人に限られています。未成年者は請求することができません。親権者等は以下の書類を準備し、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に必要書類を提出します。申立費用としては、未成年者1人当たり800円の収入印紙と郵便切手代を要します。ケースによっては予納金を求められることもあります。

【必要書類一式】
1.特別代理人の選任申立書
→裁判所のホームページから入手することができます。

2.未成年者及び親権者の戸籍謄本
→市区町村の役所で取得できます。

3.特別代理人候補者の住民票又は戸籍の附票
→相続人以外の成人が候補者になります。一般的には未成年者の祖父母などの親族が候補者になることが多いでしょう。

4.利益相反に関する資料
→遺産分割協議書(案)などが必要になります。

遺産分割協議書(案)の作成

必要書類一式が提出されると、家庭裁判所は遺産分割協議書(案)の内容を確認し、特別代理人を選任するかどうか判断します。遺産分割協議書(案)の内容が未成年者の不利益になる場合には、特別代理人が選任されない可能性があります。例えば、親権者と未成年者の2人だけで遺産分割協議を行う場面で、遺産として3000万円の不動産と1000万円の預貯金があったとします。ここで、「親権者は不動産を取得する。未成年者は預貯金を取得する。」との内容の遺産分割協議書(案)を作成した場合、親権者が全財産の4分の3を取得し、未成年者は4分の1しか取得できないことになります。法定相続分は親権者、未成年者とも各2分の1であるため、このような遺産分割協議書(案)を提出するだけでは、未成年者にとって不利益であることを理由に特別代理人の選任が認められない可能性があります。

では、親権者が不動産を売却しようと考え、便宜上、名義を親権者に移転するためにこのような内容の遺産分割協議書(案)を作成した場合はどうでしょうか。この場合、売却した代金を未成年者に分け与えるのであれば未成年者にとっても利益になるため、このような遺産分割協議書(案)が未成年者にとって必ずしも不利益であるとは言えません。このように、形式的には未成年者にとって不利益となる場合でも、実質的には未成年者にとって利益になる場合は、このことを遺産分割協議書(案)に明記するか、又は、裁判所から照会があった際に口頭又は書面で説明することにより、特別代理人が選任される可能性があります。なお、特別代理人が選任された後に作成する“正式な”遺産分割協議書は、裁判所に提出した遺産分割協議書(案)のとおりに作成しなければなりませんので、特別代理人の選任を請求する前に、すでに遺産分割の内容を定めておく必要があることになります。

 特別代理人の選任が認められると、裁判所から申立人及び特別代理人に対して、特別代理人選任審判書が送付されます。なお、候補者の選任が認められなかった場合でも、不服申立の手続きは認められていません。
特別代理人は、審判書に記載された行為について未成年者を代理する権限を有します。例えば、「被相続人Aの遺産について別紙のとおり分割協議をするにつき、未成年者Cの特別代理人として、Dを選任する。」などと審判書に記載されます。遺産分割協議が無事に終了すると、特別代理人の任務も終了することになります。

【手続きの流れ】
1.申立て
2.審理(書面照会、参与員の聴き取り、審問)
3.審判
4.選任or選任しない
5.審判結果の通知

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熊本 健人

学習院大学法学部卒業
神戸大学法科大学院修了

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