
1 改正法の成立
これまで検討が進められてきたデジタル遺言制度を含む改正民法が、令和8年6月17日に国会で可決され、成立しました。
前回の記事では、(法案段階であった)保管証書遺言以外の既存の遺言方式の見直しについてご紹介しました。
今回は、改正民法の成立によって明らかになったこと等について、ご説明します。
※過去の記事
https://egonsouzoku.com/magazine/magazine-38/
https://egonsouzoku.com/magazine/magazine-123/
https://egonsouzoku.com/magazine/magazine-160/
2 遺言に関連する法改正の概要(保管証書遺言)
前回までの記事でもご紹介しましたとおり、今回の法改正では、いわゆるデジタル遺言である、保管証書遺言が新設されました。
保管証書遺言については、法律上、単にパソコンやスマートフォンで遺言書を作ればよいという仕組みではなく、一定の方法による本人確認や署名に代わる措置等の実施が必要であり、さらに、遺言書保管官の関与の下で、遺言の全文を口述し、法務局で保管されて初めて効力が認められる制度です。
したがって、自由な方法による「デジタル遺言」が広く認められたわけではありません。
3 遺言に関連する法改正の概要(既存の遺言制度)
⑴ 自筆証書遺言
また、既存の遺言制度についても変更がありました。
まず、自筆証書遺言については、押印が不要とされました。もっとも、全文を自分で書く必要があること自体に変わりはありません。したがって、自筆証書遺言の形式面の負担が少し軽くなる、という理解が適切です。
⑵ 秘密証書遺言
また、秘密証書遺言についても、押印や封印の要件が緩和され、署名を中心とする形に整理されました。これにより、従前と比較して形式不備で無効になるリスクはやや下がることが見込まれます。
⑶ 緊急時の遺言
さらに、緊急時の遺言については、死亡危急時遺言や災害時等の特別方式の遺言において、録音・録画を活用する新たな方式が加わりました。ただし、これは誰でも自由に動画を撮れば遺言として有効になるという意味ではありません。あくまで、特別な緊急場面において、法律が定めた厳格な要件を満たした場合に限って利用できるものです。
4 段階的な施行タイミング
今回の法改正では、その施行が段階的であることに注意が必要です。
改正法は、その成立・公布後、「施行」されることによって、適用されることになります。
今回の改正民法は成立しましたが、その全ての改正内容が同時に施行されるわけではありません。
自筆証書遺言の押印要件の廃止など、既存の遺言制度の見直しは公布後1年以内という比較的早い段階で施行される見込みです。他方で、保管証書遺言は公布後3年以内の施行となる予定であり、その間に省令の整備等により、本人確認や署名に代わる措置等の具体的運用が明らかにされる予定です。
5 今回の法改正の意義
今回の法改正の意義は、「デジタル遺言が解禁された」という一言では言い表せません。
むしろ重要であるのは、遺言制度が社会のデジタル化に合わせて見直されたことです。これまでより遺言を利用しやすくなる面はありますが、その一方で、制度の細かな内容を理解しないまま「新しいデジタル遺言だから簡単になった」と考えてしまうのは適切ではありません。
特に、保管証書遺言については、今後、省令等により運用の詳細が明らかになって初めて、どのような人に向いている制度であるのかがより具体的に見えてきます。
今回の改正民法の成立を踏まえても、「新制度ができるかどうか」よりも、「自分の意思をきちんと残せる状態のうちに準備すること」が大切であることには変わりはありません。
遺言の制度が使いやすくなっても、遺言の内容があいまいであったり、財産の把握が不十分であったりすれば、相続人の間で争いが生じる可能性は残ります。デジタル化は手続の一部を便利にするものですが、財産承継の悩みそのものを自動的に解決してくれるものではありません。
6 まとめ
今回、遺言制度のデジタル化に関する改正民法が成立したことで、保管証書遺言の新設に加え、自筆証書遺言等の既存制度の見直しも、法律として具体的に固まりました。
もっとも、改正民法が成立したからといって、すぐにすべての制度が使えるようになるわけではなく、その施行を待つ必要があります。また、制度が便利になっても、財産の整理及びその承継方法等の検討そのものが不要になるわけでもありません。
大切なことは、自分の家族関係や財産の内容に合わせて、どの方法で、いつ、どの程度まで準備するのが適切かを考えることです。今回の改正民法は、そのための選択肢を広げるものではありますが、最終的に重要なのは、遺言や財産承継について、早い段階から具体的に考え始めることだといえます。
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