
1 既存の遺言方式の見直し
前回の記事では、デジタル技術を活用した新たな遺言方式である保管証書遺言を中心にご紹介しました。
今回検討されている遺言制度の見直しは、保管証書遺言の創設にとどまらず、既存の遺言方式の方式要件の見直しや、特別方式の遺言においての録音・録画等の活用なども含んでいます。
なお、本稿執筆時点では、法制審議会の要綱を踏まえた政府提出法案が国会に提出されていますが、まだ成立には至っていません。
※過去の記事
https://egonsouzoku.com/magazine/magazine-38/
https://egonsouzoku.com/magazine/magazine-123/
https://egonsouzoku.com/magazine/magazine-160/
2 自筆証書遺言の押印要件の廃止
自筆遺言証書とは、遺言者が、遺言書の全文・日付・氏名を自書すること等により成立する遺言です。
これまでの自筆証書遺言は、遺言者が全文を手書きすることに加えて、印鑑を押すことが必要とされてきました。
しかし、今回の法案では、この押印の要件がなくなる方向で見直されています。財産目録や、後から書き直した部分についても、従来必要とされていた押印は不要とされる予定です。
したがって、今後は、自筆証書遺言については、これまでより少し作りやすくなる可能性があります。
もっとも、全文を自分で書く必要があること自体は変わりません。
3 秘密証書遺言の方式の緩和
秘密証書遺言とは遺言が存在することは明らかにしつつも、その内容を秘密にしておくことができる遺言です。
あまり利用例は多くありませんが、秘密証書遺言についても見直しが予定されています。
これまでは、遺言書そのものへの押印や、遺言書に利用した印鑑により封印することが必要とされていました。
今回の法案では、遺言書への押印と、印鑑による封印の双方が不要とされ、「押印」よりも「署名」を中心とする形に整理される予定です。
一般の方にとっては少しの違いに見えるかもしれませんが、形式不備で無効になるリスクを減らすという意味では、実務上は小さくない変更です。
4 緊急時の遺言(死亡危急時遺言及び船舶遭難者等の遺言)
今回の見直しで、デジタル化が入るのは保管証書遺言だけではありません。
命が危ないときの緊急の遺言についても、押印が不要とされ、録音・録画などを活用できるようにする方向で見直しが進んでいます。
たとえば、死亡の危急に迫っている人については、証人の立会いのもとで、遺言の内容を述べ、その様子を録音・録画で記録する方法が新たに認められる予定です。そのうえ、一定の場合には、証人が同じ場所にいなくても、映像と音声でお互いの状況を確認しながら通話する方法、つまりウェブ会議のような方法も使えることになります。
また、船舶の遭難時だけでなく、災害などの大きな緊急事態で避難が難しい場所にいる人についても、録音・録画を使った遺言の方式が広がる予定です。
ただし、これは、誰でも自由にスマートフォンで動画を撮れば遺言として有効になる、ということではありません。あくまで、特別な緊急場面で、法律の定める条件を満たした場合に限って認められる方式です。
5 まとめ
今回の遺言制度の見直しは、「新しいデジタル遺言ができるようになる」というだけの話ではありません。
自筆証書遺言等の押印が不要になり、緊急時には録音・録画や遠隔での証人立会いを活用できる場面が見込まれるなど、今ある遺言制度自体も変わることになります。
遺言は、最後の意思を実現するための大切な手続です。
制度が使いやすくなることは望ましい一方で、方式を間違えると無効になる可能性もあります。今後、法案の成立や施行時期が正式に決まれば、「どの方式が使えるのか」「自分にはどの方式が合っているのか」を改めて確認することが大切です。
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