第23回 遺産分割まとめ⑨

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山下 昌彦

2026-10-19

第23回 遺産分割まとめ⑨

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1 はじめに

前回に続いて、遺産分割における諸問題についてのまとめ解説の第9回目となります。
今回は、一度成立した遺産分割協議をやり直すことができるか、すなわち遺産分割協議の「やり直し」(再分割)について解説いたします。

2 遺産分割協議のやり直し(再分割)とは

遺産分割協議のやり直しとは、一度有効に成立した遺産分割協議を合意解除し、改めて遺産分割協議を行うことをいいます。後述するとおり、遺産分割協議は原則として相続人全員の合意により解除することが可能とされていますが、遺産分割協議のやり直しには一定の制約があり、その性質や税務上の問題等についても理解しておくことが必要です。

3 遺産分割協議のやり直しの可否

(1) 原則:相続人全員の合意があればやり直し可能
遺産分割協議は相続人全員の合意による契約行為であるため、相続人全員の合意があれば、一度成立した遺産分割協議を合意解除し、改めて遺産分割協議を行うことが可能です。
この点につき、判例は「共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではな」いと判示しています(最高裁平成2年9月27日判決)。

(2) やり直しができない場合
もっとも、相続人全員の合意があっても、第三者の権利を害する場合、遺産分割協議のやり直しができない場合があります。すなわち、遺産分割によって取得した財産を第三者に譲渡した場合等、既に遺産分割の結果として第三者が権利を取得している場合には、当該第三者の権利を害することはできないため、当該第三者が取得した権利に関する部分については、遺産分割協議のやり直しはできません。
例えば、遺産分割協議によって特定の相続人が取得した不動産を第三者に売却し、第三者が所有権移転登記を備えた場合、当該不動産を別の相続人に分割する内容での遺産分割のやり直しはできません。

なお、不動産について遺産分割協議に基づく相続登記が完了している場合であっても、上記の場合(第三者への権利移転等)を除き、相続人全員の合意があれば、登記を移転する形で遺産分割のやり直しをすることは可能です。
ただし、後述のとおり、税務上の問題が生じる場合がある点には注意が必要です。

4 遺産分割協議のやり直しの効果

(1) 相続人間の効果
相続人全員の合意により遺産分割協議を解除した場合、当該遺産分割協議は遡及的に効力を失い、遺産は再び共同相続人の共有状態に戻ります。そのうえで、改めて行われた遺産分割協議の内容に従って、遺産の帰属が確定することになります。

(2) 税務上の問題点
遺産分割協議のやり直しは、法律上は可能ですが、税務上は注意が必要です。

① 相続税
税務上、有効に成立した遺産分割協議を合意解除して再分割を行っても、それは相続のやり直しとは認められず、その財産は相続税法上の「分割」により取得したものとはみなされません(相続税法基本通達19の2-8)。すなわち、一度有効に成立した遺産分割協議を単に合意解除しただけでは、相続税の更正の請求が認められる「やむを得ない事情」には該当しないと解されており、再分割の内容に基づいた相続税の修正申告や更正の請求は、原則として認められない点には注意が必要です。やり直しを行う際には事前に税理士等の専門家に相談することが望ましいです。

② 贈与税・譲渡所得税
遺産分割協議の合意解除により、ある相続人が取得した財産を別の相続人に移転した場合、税務上は、最初の遺産分割協議によって取得した財産を他の相続人に贈与したものとみなされる可能性があります(贈与税の課税リスク)。
また、やり直し前の遺産分割で取得した財産が不動産である場合、当該不動産の価値が取得時より上昇していれば、譲渡所得税が課税されるリスクもあります。

このような税務上のリスクを回避するためには、やり直し前の遺産分割協議が無効又は取消し得るものであったことを根拠としてやり直しを行う場合(例えば、錯誤や詐欺・強迫による取消し)と、単純な合意解除によるやり直しの場合とで、税務上の取り扱いが異なることに留意が必要です。前者の場合は、遡及的に最初の遺産分割がなかったことになるため、贈与税等の課税を回避できる可能性があります。

5 遺産分割協議のやり直しの手続

遺産分割協議のやり直しを行う場合、具体的には以下の手順で進めることになります。

(1) 合意解除の合意書又はやり直し後の遺産分割協議書の作成
やり直しを行うためには、相続人全員の合意が必要であるため、全員が署名・押印(実印)した合意解除の合意書、又は新たな遺産分割協議書を作成します。なお、実務上は、合意解除の合意書と新たな遺産分割協議書を別々に作成するよりも、「やり直し前の遺産分割協議を合意解除するとともに、以下のとおり改めて遺産分割協議を行う」という内容を一つの書面にまとめることが多いです。

(2) 印鑑証明書の取得
不動産の登記手続等を行う際には、相続人全員の印鑑証明書が必要となります。

(3) 登記・名義変更等の手続
不動産については、やり直し後の遺産分割協議の内容に基づき、法務局において登記手続を行います。具体的には、当初の相続登記を「合意解除」を原因として名義を戻す(所有権移転登記等)などの手続が必要となります。なお、当初の分割に無効・取消事由がある場合は、更正登記や抹消登記の手続をとることになります。
預貯金口座については、各金融機関の所定の手続に従って名義変更等を行います。

(4) 税務申告の修正
前述の税務上の問題が生じる場合には、税理士の助言のもと、相続税の修正申告や更正の請求等の税務手続を行います。

6 おわりに

遺産分割協議のやり直しは、相続人全員の合意があれば法律上は可能ですが、第三者の権利保護や税務上のリスクなど、実務上考慮すべき点が多く存在します。やり直しを検討する際には、事前に弁護士・税理士等の専門家に相談のうえ、慎重に進めることが重要です。

以 上

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弁護士

京都大学法学部卒業
甲南大学法科大学院修了

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