今回は、相続人の地位にある人が、相続をしたくないといって、自らの意思で、相続人の地位を失わせる「相続放棄」の制度をご紹介します。
親に借金があった!どうすればいい?!
CASE①
A男(80歳)とB女(75歳)夫婦の間には子C(55歳)がいる。 Cは、A男から、かねがね、預貯金が少しあるから相続のときにはCに相続させると聞いていた。 ところが、A男が亡くなり、Cが実家の整理をしていた際、A男宛に、多数の消費者金融から支払督促状が届いているのを発見した。その合計額は1000万円を超えていた。他方で、A男の預貯金口座には、わずか10万円程度の残高しかなかった。
まず、大前提として、相続をする対象は、預貯金や不動産などのプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。
そのため、上記のCASEでは、このまま普通に相続をすると、B女とCは借金だけを引き継ぐことになってしまいます。
このような事案で役に立つ制度が、相続放棄です。
相続人が相続放棄をすると、相続開始時点に遡って、相続人ではなかったことになります。
(参考)
(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
相続放棄の手続きは?
相続放棄は、相続人間の書面のやりとりなど任意の方法で行うことはできず、必ず、家庭裁判所を使わなければならないことに注意が必要です。
家庭裁判所に行くとなると、難しい手続きなのでは?と思われるかもしれませんが、定型的な書式に記載をするだけですし、書式も家庭裁判所に備え付けられていますので、そこまで難しい手続きではありません。裁判所の書式雛形は、裁判所のウェブサイト上にも掲載されています。
(参考)
(相続の放棄の方式)
第九百三十八条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
相続放棄はいつまでにしなければならないの?
CASE②上記①のCASEでCは、相続放棄という制度があることを知り、A男が亡くなってから半年後に、管轄の家庭裁判所の窓口に出向き、相続放棄の必要書類を提出しようとした。すると、裁判所の窓口で、「Cさん、、、3ヶ月過ぎてしまっていますね、、、」と言われた。
相続放棄は、原則として、被相続人が死亡した日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申述しなければなりません。これを、熟慮期間、といいます。
ここで、「原則として」ということばの意味ですが、民法の条文上は、「自己のために相続の開始があったことを知った日から」3ヶ月以内、とされています。
(参考)
(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
通信網が発達した現代では、通常、被相続人が死亡した事実自体は、相続人はすぐに知ることになるケースが大半でしょう。そのため、「自己のために相続の開始があったことを知った日」は、「被相続人の死亡した日」とイコールになると考えておくのが無難です。
ところが、死亡の事実自体はすぐに知り得たとしても、被相続人が多額の負債を抱えていたことを知るまでの間にタイムラグが発生してしまうケースはあり得ます。
CASE③上記のCASE①で、CがA男の借金を知ったのは、A男が死亡してから1年後のことであった。
このような事例で、最高裁判所は、①3ヶ月以内に相続放棄をしなかったのが被相続人に相続財産が全くないと信じたためであり、②そのように信じるについて相当な理由があるときは、「相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算」することができるとして、例外的に、Cを救済しました(最高裁昭和59年4月27日)。
しかし、以上のような最高裁判例があると言っても、やはり原則は、被相続人の死亡時から3ヶ月間です。被相続人の死亡を知った場合は、速やかに、相続債務の有無について、慎重な確認をして、3ヶ月以内に相続放棄の有無を判断するべきです。
以上
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