第63回 配偶者居住権について

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益子 真輝

2024-04-11

第63回 配偶者居住権について

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1 ケース

Aさん(妻)は、現在、Bさん(夫)が単独所有しているマンションに、Bさんと二人で住んでいます。Aさんとしては、仮に、Bさんが先に死亡した場合には、Aさん自身も高齢ということもあり、マンションの所有権は、AさんとBさんとの間にできた3人の子ども達のみで相続することもやむを得ないと考えています。もっとも、Aさんは、今住んでいるマンションに死亡するまで住み続けることを希望しています。
そこで、Aさん・Bさんとしては、Bさんが先に亡くなる場合に備えて、どのような対策を取ることができるでしょうか。

2 対策例

⑴ 対策の一つとしては、Bさんの遺言で、Aさんに配偶者居住権を設定する方法が考えられます。
⑵ そもそも、配偶者居住権とは、令和2年4月1日に施行された改正民法によって認められるようになった権利で、相続開始の時に被相続人(Bさん)が所有する建物に居住していた配偶者(Aさん)に、配偶者(Aさん)自身が死亡するまで、その居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権限を認めるものです。また、配偶者居住権を取得した場合、その財産的価値に相当する金銭を取得したことになりますが、配偶者居住権は、居住建物の所有権を取得するよりも低廉な価格で配偶者(Aさん)が居住権を長期的に確保できる側面があります。
 次に、配偶者居住権を取得するためには、①配偶者が、相続開始の時に、遺産である建物に居住していたこと、つまり、配偶者が当該建物を生活の本拠としていたこと、②当該建物が、被相続人の単独所有あるいは配偶者と2人の共有にかかるものであること、③当該建物について、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割、遺贈等がなされたことが必要となります。
 上記ケースにあてはめると、Bさんがなくなる際に、Aさんが、マンションを生活の拠点としている場合には①は充足します。また、本件では、マンションは、Bさんの単独所有ですので②についても問題ありません。さらに、③についても、遺言に、Aさんに配偶者居住権を取得させる旨を記載すれば問題ありません。
上記各要件を充足すると、Aさんは、死亡するまで、原則として、配偶者居住権により、当該マンションに住み続けることができます。
⑶ ただし、配偶者居住権の財産評価額の具体的な算定方法はここでは省略しますが、既に述べたとおり、配偶者居住権を取得した場合には、その財産的価値に相当する金銭を取得したことになります。そのため、配偶者(Aさん)が、配偶者居住権を取得した場合には、自分の相続分から、配偶者居住権の財産評価額が引かれることになる点には注意が必要です。
 また、配偶者居住権は譲渡することもできません。配偶者居住権は、配偶者が相続開始後も従前の居住環境での生活を継続することを保護するための制度であるため、第三者への譲渡を認めることは制度趣旨に反するからです。
場合によっては、当該不動産が第三者に売却されて、所有権者が変わることもあるかもしれません。その場合に備えて、配偶者(Aさん)は、配偶者居住権を登記しておけば、第三者に配偶者居住権を主張(対抗)できます。なお、建物の賃貸借契約とは異なり、居住建物の引渡しは第三者への対抗要件とはなっていないため、登記をしなければ、第三者に配偶者居住権を主張(対抗)できません。
⑷ 最後に、相続において、居住している不動産の所有権を取得することも考えられますが、老後の安心等のために配偶者がより多くの金銭等を相続されたい場合で、居住不動産の処分等を考えておられず、とりあえず住み続けられれば良いというような場合には、配偶者居住権を取得するという選択肢も有力になろうかと思われますので、今回はご紹介いたしました。

以上

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益子 真輝

同志社大学法学部法律学科卒業
神戸大学法科大学院修了

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