第54回 遺言無効確認請求訴訟について(その①)

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益子 真輝

2022-10-28

第54回 遺言無効確認請求訴訟について(その①)

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はじめに

 今回は、遺言無効確認請求訴訟について解説していきます。
 なお、本解説については、令和4(2022)年4月1日時点における民法を前提にしています。
 第53回「遺言執行者に就職した場合の対応(その③)」においても説明したとおり、遺言の有効性は、最終的には訴訟により決着をつけざるを得ませんので、遺言執行者が、当該遺言は無効であると考えたとしても、受遺者(遺贈をされる人もしくは法人)ら利害関係人が遺言の有効を主張している場合には、事案によっては、遺言執行者が原告となり、受遺者ら利害関係人(被告)に対して、遺言無効確認請求訴訟を提起し、これにより権利関係を確定させることが必要な場合もあります。
 一方で、遺言執行者が、遺言が有効であると判断した場合においても、遺言の有効性については、最終的には訴訟により決着をつけざるを得ません。その場合、相続人が原告となり、遺言執行者を被告として、遺言無効確認請求訴訟を提起することも可能です。
そこで、今回は、遺言無効確認請求訴訟がどのような流れで行われるのかについて解説します。

遺言無効確認請求訴訟について

 遺言無効確認請求訴訟では、同訴訟の当事者間において、遺言が無効であるのか、それとも、有効であるのかという点について、裁判所が判断を行います。かかる判断が判決として確定した場合には、他の民事訴訟と同様に、両当事者にて、裁判所の判断(遺言が有効か無効か)を争うことは許されず、他の裁判所もその判断(判決)に拘束されます。また、遺言無効確認請求訴訟の当事者(原告・被告)となり得るのは、遺言者の相続人及び受遺者とその承継人(被承継人の権利義務を引き継いだ者)並びに遺言執行者です。
 また、遺言無効確認請求が認容され、遺言が無効であることが確定すれば、遺言が存在しないことを前提に遺産分割を行うことになり、一方で、無効確認請求が棄却されれば、遺言が有効であることを前提に遺産分割をすることになりますので、遺言無効確認請求訴訟は、遺言の効力をめぐる紛争を根本的に解決することに意義があります。

調停前置について

 遺言無効確認請求訴訟は家庭に関する事件であることから、まずは家事調停の申立てを行う必要があります(家事事件手続法257条1項、244条)。つまり、家庭に関する訴訟事項について、いきなり訴訟手続によって公開の法廷で争わせることは、家庭の平和という見地と、親族間の健全な関係性を築くという見地からは、望ましくないと考えられています。そのため、当事者双方が、合意により主体的に解決することを目指す手続きである家事調停(非公開)を経ることで、当事者間で十分に話し合った上で、当事者間のお互いの譲り合い(互譲)により、なるべく円満かつ自主的な解決を行うことが望ましいと考えられています。
 ただし、被告が所在不明であったり、事前交渉の経緯から調停期日に欠席することが明白であったり、合意成立の見込みがほとんどないような場合などは、「裁判所が事件を調停に付すことが相当でないと認めるとき」(家事事件手続法257条2項ただし書)として、家事調停を経ずに訴訟に移行することもあります。そのため、調停を経由しないで、訴訟を提起する場合には、上申書等で裁判所にその事情を明らかにし、「裁判所が事件を調停に付すことが相当でないと認めるとき」(家事事件手続法257条2項ただし書)として処理してもらうことを、裁判所に対して求めておくことが適切です。

和解の可否について

 遺言無効確認請求訴訟では、前述のとおり、同訴訟の当事者間において、遺言が無効であるのか、それとも、有効であるのかという点について判断が行われます。もっとも、遺言無効確認請求訴訟は、他の民事訴訟と同様に、和解による解決を図ることも可能です。その際、和解では、遺言の効力(遺言が有効か、無効か)に関する合意のみならず、遺言の有効又は無効を前提としたその後の紛争についても解決することが可能です。
 ただし、和解においても、訴訟の当事者間においてのみ効力が及ぶことが原則ですので、相続の関係者が訴訟当事者になっていない場合には、その者を参加させて和解の合意形成に努めることも想定されます。

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益子 真輝

同志社大学法学部法律学科卒業
神戸大学法科大学院修了

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