離婚後の養育費の不払いは社会問題となっています。今回は、養育費を支払っていた親がその支払の途中で亡くなった場合に、過去の未払い分や将来分の養育費について、その相続人に対して請求することができるかという問題について解説していきます。
<CASE>
Aには妻Bと子Cがいる。AはBと離婚し、Cの養育費を月10万円ずつ継続的に支払っていた。ところが、Aは、途中から支払を滞納するようになり、その額は100万円に達した。
その後、Aは死亡した。Cの養育費の支払終期まであと5年ある。Aが負担していた養育費の支払義務はどうなるか。
なお、AはBと離婚した後、Dと再婚している。Aの子はCのほかにはいない。
養育費支払義務の相続
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するのが原則です。もっとも、「被相続人の一身に専属したもの」(一般的には「一身専属権」といいます)については、承継されないとされています(民法第896条)。
第896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
養育費の支払義務については、親が子に対して負担するものであるため、この一身専属権にあたり、将来発生する養育費の支払義務が相続されることはありません。
したがって、Bは、残り5年あるAのCに対する将来発生する月10万円の養育費の支払請求をAの相続人に対して行うことはできません。
では、未払いの100万円の養育費支払義務はどうなるでしょうか。
すでに発生している未払いの養育費については、一般的な金銭債務と同様に、相続の対象となります。将来発生する養育費支払義務は一身専属権となりますが、発生済みの未払いの養育費分は、既に金銭債務として具体化され確定しているため、一身専属権にはなりません。
したがって、Bは、Aの後妻であるDに対して、未払いの養育費分を請求することができます。
もっとも、Dのみならず、CについてもAの相続人となり、CとDの法定相続割合は、それぞれ2分の1ずつとなりますので、未払い養育費の100万円については、CとDがそれぞれ50万円ずつ負担することになります。
ところが、Cは自身のための養育費の支払義務を自ら負担することは妥当ではありませんので、このような場合、Cの支払義務は、法律上消滅することになります。これを「混同」といいます(民法第520条)。
第520条
債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。
したがって、BはCの法定代理人の立場で、Aに対して、未払いの養育費のうち、50万円のみの支払を請求することができます。
まとめ
養育費については、将来発生する養育費支払義務については、一身専属権であるため相続人に対しては請求することができず、他方で、過去に発生した未払い分の養育費については、一般的な金銭債務になるため、相続人が法定相続分に応じて支払義務を負うことになります。