第52回 遺言執行者に就職した場合の対応(その②)

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益子 真輝

2022-08-23

第52回 遺言執行者に就職した場合の対応(その②)

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はじめに

今回も、遺言執行者について解説していきます。なお、前回と同様に、本解説については、令和4(2022)年4月1日時点における、民法を前提にしています。

遺言執行者の権限について

まず、遺言執行者は、以下の義務を負います。もっとも、民法においては、以下の義務以外についても規定されていますので、これらに限定されるわけではありません。

・遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付する義務(民法1011条第1項)。
・相続人から請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させる義務(民法1011条第2項)。
・遺言執行者は、善管注意義務に基づき遺言執行の処理の状況、経過及び結果について、相続人に対し、報告をする義務(民法1012条3項、同法645条)。
では、以下のケースの場合は、どうでしょうか。


【ケース】

被相続人Aは、既に夫とは死別し、子もいなかったため、友人Yを遺言執行者に指定し、相続財産の全てを現金に換えた上で、法人Bに遺贈するという内容の遺言をした。その後、Aが死亡し、Yが遺言執行者に就任した。Yは、Aの法定相続人として甥のXがいたことは把握していたが、Xには、遺留分がないことから、連絡をする必要はないと考え、Xに何らの連絡をしないまま、Aが所有していた不動産を第三者Cに売却し、相続財産の換価処分をおこなった。
すると、Xが、自分の知らない間にYが遺言執行者としてAが生前所有していた不動産を第三者Cに売却したことを知り、Xは、Yに対して、相続財産目録の交付、及び遺言執行に関する説明を求めた。
この場合、Yは、Xの要求に応じる必要があるでしょうか。

解説

そもそも、一定の法定相続人には、遺留分に相当する利益(金銭的利益)を相続財産から取得できる地位が法律によって保障されています。そのため、仮に、本件において遺留分を有する法定相続人がいた場合には、Bに対する包括遺贈がなされたとしても、遺留分侵害請求権を行使できる可能性があります。

もっとも、Xのような遺留分が認められていない法定相続人については、遺留分侵害請求権の行使ができず、本件のように包括遺贈などをされてしまうと、相続に関するすべての権利を喪失するため、相続財産の目録を交付する実益がないようにも思え、遺言執行者が相続財産目録の交付等の対応をとる必要がないようにも考えられます。

しかし、東京地裁平成19年12月3日判決・判例タイムズ1261号249頁(以下「本件判決」といいます。)では、以下のとおり判示され、遺言執行者(Y)は、遺留分が認められていない法定相続人(X)に対して、遅滞なく相続財産の目録を作成する義務や、遺言執行の状況及び結果について報告する義務があるとしました。

つまり、本件判決では、相続財産の目録を作成する義務や、遺言執行の状況及び結果について報告する義務は、「相続人が遺留分を有するか否かによって特に区別が設けられているわけではないから、遺言執行者の相続人に対するこれらの義務は、相続人が遺留分を有する者であるか否か、遺贈が個別の財産を贈与するものであるか、全財産を包括的に遺贈するものであるか否かにかかわらず、等しく適用されるものと解するのが相当である」とし、「しかも、相続財産全部の包括遺贈が真実であれば、遺留分が認められていない法定相続人は相続に関するすべての権利を喪失するのであるから、そのような包括遺贈の成否等について直接確認する法的利益があるというべきである。したがって、遺言執行者は、遺留分が認められていない相続人に対しても、遅滞なく被相続人に関する相続財産の目録を作成してこれを交付するとともに、遺言執行者としての善管注意義務に基づき、遺言執行の状況について適宜説明や報告をすべき義務を負うというべきである。」と判示されました。

また、本件判決では、以下のとおり判示され、かかる義務があるとしつつも、個々の遺言執行行為に先立って常に説明を行う必要まではないとしています。つまり、遺言執行者から相続人に対してなされるべき説明や報告の内容や時期については、諸般の事情(適正かつ迅速な遺言執行を実現するために必要であるか否かや、その遺言執行行為によって相続人に何らかの不利益が生じる可能性があるか否かなど。)を総合的に勘案して、個別具体的に判断されるべきものとしました。

本件判決では、「遺言執行者から、遺贈をした遺言者の遺志が適正に行われることにつき重大な関心を有する相続人に対して、遺言執行に関する情報が適切に開示されることは、遺言執行者の恣意的判断を排除して遺言執行の適正を確保する上で有益なものということができる反面、遺留分を有しない相続人による遺言執行行為への過度の介入を招き、かえって適正な遺言の執行を妨げる結果になることも懸念されるところであるから、個々の遺言執行行為に先立って常に相続人に対して説明しなければならないとすることは相当ではない」とした上で、「遺言執行者から相続人に対してなされるべき説明や報告の内容や時期は、適正かつ迅速な遺言執行を実現するために必要であるか否か、その遺言執行行為によって相続人に何らかの不利益が生じる可能性があるか否かなど諸般の事情を総合的に勘案して、個別具体的に判断されるべきものである。」と判示されました。

以上より、本件においては、友人Y(遺言執行者)は、甥Xに対して、遅滞なく被相続人に関する相続財産の目録を作成してこれを交付する必要はあるものの、説明・報告すべき内容や時期については、事案によって異なるということになります。

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益子 真輝

同志社大学法学部法律学科卒業
神戸大学法科大学院修了

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