なぜ遺言を作っておいた方が良いのでしょうか。
それは争う族を防ぐ、最も効果的な手段だからです。
争う族はどういう時に起きるのか?
それは早くて通夜、遅くても四十九日前後に起こります。
例えば、皆さんの母親が亡くなったと想像してみてください。
通夜や葬儀、その段取りや後始末で息つく暇もなくバタバタしていましたが、だいたい四十九日が終わる頃にようやく落ち着きます。
そろそろ、亡くなった母親の銀行口座の払い戻しのために銀行へ、さらには母親所有の自宅の名義変更(相続登記と言います)を行うために法務局へ行きます。
法務局の人は「お母さまの遺言はありますか?」と聞いてきます。日本では9割近くの人は遺言を作っていませんので、当然法務局に行った皆さんは「遺言はありません。」と答えます。そうすると法務局の人は「それでは相続登記はできませんので、遺産分割協議書を作成してもう一度来てください。」と言ってきます。
皆さんはここで初めて「遺産分割協議書とはなんぞや?」となるわけです。調べてみるとわかりますが、遺産分割協議書とは『亡くなった母親の遺産を、残された相続人でどのように分けるか」というものを協議(話し合い)して書面にし、相続人全員の署名捺印をしたものです。
大体このような場合、年長者(長男や長女)が遺産分割協議書を作成することになります。そして、作成した遺産分割協議書を弟や妹たちから署名捺印してもらうわけですが、ここで問題が起きるのです。
「ちょっと待ってよ、兄さん!こんな遺産分割協議書に私はハンコ押さないわよ!だってお母さんの介護の面倒見たの私じゃない!なんで、兄さんがお母さんの財産を半分も持っていくわけ??意味わかんない!」こんな具合です。
そこで困ったお兄さんはどうなるでしょうか?
亡くなった母親の銀行口座は凍結されたままで現金を引き出せません。母親の自宅も名義変更できずそのままになります。また、母親が乗っていた車でさえ、中古車屋さんに持って行っても遺産分割協議書がないので売却できないという事態になるのです。
あちこちで“争う族”が発生
これが相続における“争う族”というものです。
争う族はだいたい遺産分割協議の最中に勃発します。親の生前にどれだけ仲が良くても、親という太陽たる存在が失われると、もはや骨肉の争いを繰り広げる“他人”と化すのです。
財産を誰が、どのように相続するのかを決める協議ですから、争いが起きやすいことは容易に想像できるでしょう。
遺言さえあれば
逆に言うと、遺言があれば、遺産はそのとおりに分割されますので、遺産分割協議をする、つまり遺産分割協議書を作成する必要がないので、法務局や銀行でも遺言のとおりに粛々と手続きが進むわけですから、争いやトラブルが起こりにくくなります。もし起こったとしても、遺言の効力が勝るため決着を迎えることになります。
こういったように、残された子供たちが争わないためにも、ぜひ、親は遺言を残してほしいのです。いわば親のマナーとも言えます。ところが、肝心の親は、「遺言を書いて」と子供たちに言われると、「私が死んだ後のことを言うなんて縁起でもない!しかも私の財産が気になるなんて、なんてあさましいこと言ってるの!」と怒り出します(もちろん子供たちの言い方にも問題があることもありますが)。こういったことは本当に良くある話ですが、決してネガティブなことではないのです。子供たちが争わないために、親がビシッと財産をどう相続させるか決めて記しておくべきなのです。もしくは遺言を残さないのであれば、極端な話、全財産を使ってしまうべきです。そうすれば争いようがありません。
遺言書を作る場合は、書き方や内容次第で逆にトラブルを招いてしまうこともありますので、そういうことがないように、事前に専門家に相談しておくべきです。
遺言の作成が増えてきているとはいえ、欧米と違い、まだまだ遺言を作ることが一般的ではない日本。早く遺言を作ることが当たり前のマナーとなるような世の中になってほしいものです。