死因贈与をうまく使う方法
先日こんなことがありました。
北関東のある都市に住む田中さん(仮名)という男性が亡くなりました。亡くなった後、死因贈与契約書が見つかったのです。死因贈与と聞いても『?マーク』が出る人が多いであろうこの耳慣れない制度について、説明したいと思います。
死因贈与とは
死因贈与とは『自分が亡くなったら、特定の誰かに財産を贈与する』という契約です。要は生きてるときに贈与するのではなく、『自分が死んだら贈与するね』というものです。
今回のケースでは田中さんは自分が亡くなったら、自宅やお金などを東京に住む従妹である香さんに贈与する』という内容でした。
田中さん自身は1人っ子。未婚で子供もなく、両親もいない状態で法定相続人はおりませんでした。そこで死因贈与をしたのでしょう。しかしここで疑問が残ります。そう、なぜ『遺言を作成するのではなく、わざわざ死因贈与にした』のかという問題です。
遺言は、遺言者の一方的な意思表示ですが、死因贈与は、贈与者の『あなたにあげるね』と、受贈者の『はい、了解しました』と双方の合意によるものです。
実は、死因贈与は遺言と異なり、『死因贈与契約と同時に不動産に条件付き所有権移転の仮登記を行う』のです。よって、一旦この仮登記をしてしまうと、撤回するためには、原則両者(ここでは田中さんと香さん)の協力が必要になります。一方で、遺言の場合、仮に田中さんが遺言を作成した後、心変わりをして『やっぱり香さんに相続させない』となった場合、香さんに何ら知らせることもなく、遺言を書きなおすということが想定されます。つまり『遺言は簡単に撤回可能、死因贈与は受贈者の協力が必要』になるという点において異なるわけです。
死因贈与自体は相続の実務に関わっていてもあまり出てきません。しかし親の心変わりなどを心配するお子様などが、この手法を使うと効果的と言えるでしょう。
なお、今回のケースでは死因贈与契約を作成した司法書士の先生が『執行者』となり、粛々と贈与契約通りに手続きが済みました。ここの部分に関しては実務上、遺言執行者をイメージするとわかりやすいかもしれません。
よくあるケース
よくあるケースとしては、
・父が離婚したり、妻に死去されたケースで後妻や内縁の妻がいるケースで子供側から『父が後妻(もしくは内縁の妻)に遺言を作成してほとんどの資産を相続させてしまう』ことに対して懸念されているお子様
・相続人がいなくていとこなどに遺産を相続させたい場合でかつ双方ですでに合意が取れている場合
上記のようなケースのときにはぜひ、この死因贈与を活用することが良いと思います。死因贈与契約の後、心変わりをしたとしても両者の合意がないと仮登記を外すことができません。
なお、死因贈与の場合は、名称から贈与税かな?と思いそうですが、相続税となりますのでご注意ください。死因贈与でも相続税の申告が必要であるということです。