第41回 遺言書の文言解釈について(その②)

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益子 真輝

2021-10-05

第41回 遺言書の文言解釈について(その②)

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 はじめに

今回は、前回に引き続き、遺言書の文言が、どのような基準で解釈されてきたかを、最高裁判決(最判平成5年1月19日民集四七・一・一)を参照しながら、解説したいと思います。

事案の概要

今回紹介する、最高裁判決の概要は、以下のとおりです。
亡くなったAさん(被相続人)の法定相続人は,いずれも妹であるBさんたちであり、Aさんが遺言書を作成した時は、AさんとBさんたちは長らく絶縁状態にあり、Aさんは、自分は天涯孤独である旨述べていました。また、遺言書(以下「本件遺言書」といいます。)には、「2,遺産は一切の相続を排除し、3,全部を公共に寄与する」との記載がありました。
そこで、裁判では、Bさんらは、「2,遺産は一切の相続を排除し」という文言は、無意味であり、「3,全部を公共に寄与する」という文言は、無効であるとの主張を行いました。そこで、本件遺言書が有効であるか否か、仮に有効である場合には、①民法893条に定める廃除の意味であるのか、それとも②包括遺贈についての意味なのかという点から、その文言の解釈について争われました。
仮に本件遺言書が有効であり、①民法893条に定める廃除の意味であるとすると(民法893条に定める廃除とは、被相続人の意思により、家庭裁判所が推定相続人の相続資格を奪う制度です。)、廃除の対象となるのは遺留分を有する推定相続人に限定されますが、BさんらはAさんの妹であることから遺留分を有さず、本件遺言書の当該文言は何らの意味を有さないことになり、法定相続分などに従って相続されることになります。一方、②包括遺贈の意味であるとすると、Bさんらは、遺産を一切受け取れなくなります。
裁判所の判断としては、本件遺言書は有効であり、②であるとしました。

裁判所の判断

第2審(東京高判昭62年10月29日)では以下のように判示しました。
「本件遺言執行者指定の遺言書を含めた本件遺言書の全記載文言、本件遺言書作成当時の事情、及び遺言者亡太郎(Aさん)の置かれていた状況など・・・・・・の事実によれば、本件遺言書中「遺産は一切の相続を排除」ごとの条項は、それに続く、「全部を公共に寄与する。」との条項との関連、並びに被控訴人ら(Bさんら)が従前より亡太郎(Aさん)と絶縁状態にあったもので、亡太郎(Aさん)の遺留分を有しない妹であることなどの事情にかんがみ、民法八九三条に規定の規定にいう推定相続人を廃除する意思を表示したものではなく、「全部を公共に寄与する。」との条項とあいまって、亡太郎(Aさん)の遺産につき被控訴人ら(Bさんら)相続人に相続財産を残すことをせず、その全部を公共に寄与する趣旨を明確に表示したものと解す」(括弧書きは引用者)としました。
その後、最高裁(最判平成5年1月19日民集四七・一・一)では、以下のとおり判示しました。
「遺言の解釈に当たっては、遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが、可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんであり、そのためには、遺言書の文言を前提にしながらも、遺言者が遺言書作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許されるものというべきである。このような見地から考えると、本件遺言書の文言全体の趣旨及び同遺言書作成時のAの置かれた状況からすると、同人としては、自らの遺産を上告人ら(Bさんら)法定相続人に取得させず、これをすべて公益目的のために役立てたいという意思を有していたことが明らかである」(括弧書きは引用者)としました。

解説

【第40回 遺言書の文言解釈について(その①)】においてご紹介したとおり、最高裁判所は、「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。」(最判昭和58年3月18日家月三六・三・一四三)としています。
その上で、最判平成5年1月19日民集四七・一・一においては、「遺言の解釈に当たっては、遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが、可能な限りこれを有効となるように解釈することが右意思に沿うゆえんであり、そのためには、遺言書の文言を前提にしながらも、遺言者が遺言書作成に至った経緯及びその置かれた状況等を考慮することも許されるものというべきである。」としたうえで、本件において、Aさん(被相続人)の法定相続人が、本件遺言書を作成した時は、AさんとBさんたちは長らく絶縁状態にあったことなどから、「2,遺産は一切の相続を排除し、3,全部を公共に寄与する」という文言は、①民法893条に定める廃除の意味と解釈してBさんらに相続させるのではなく、②Aさん自らの遺産をBさんたちに取得させずに、これをすべて公益目的のために役立てたいという意思であると判断し、遺産の全部を公共への「包括遺贈」、つまり、遺産すべてを「公共」に与える趣旨であるとして、本件遺言書を有効としました。
 
以下、参照した条文です。

(遺言による推定相続人の廃除)
第八百九十三条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

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益子 真輝

同志社大学法学部法律学科卒業
神戸大学法科大学院修了

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