1. 遺産分割協議の期限
民法には遺産分割協議に期限が定められておらず、たとえ相続開始後何十年経過した場合であっても、遺産分割協議を行うことが可能です。
しかし、遺産分割協議がなされないまま長期間が経過すると、相続財産の権利者が確定しない状態が長期化し、また、相続人からさらに相続(二次相続)が発生するなど、権利関係がより複雑になります。特に相続財産が不動産の場合は、権利者が確定しない又は不明の状態が長期化することによって、不動産の有効活用に支障をきたすことになります。
そこで、令和3年4月に民法が改正され、相続開始後10年が経過すると、特別受益や寄与分の主張ができなくなりました。
特別受益とは、相続人のうち、被相続人から遺贈や生前贈与等によって一部の相続人が受けた特別の利益のことを言います。特別受益を得ていた相続人は、相続人間の不公平を解消する見地から、相続において相続分から特別受益分が控除されることになります。
(過去の記事:https://egonsouzoku.com/magazine/magazine-233/)
他方、寄与分とは、相続人のうち、被相続人の財産の維持や増加について貢献した場合、相続人間の不公平を解消する見地から、その貢献の度合いに応じて相続分に加算して受け取ることができる遺産のことを言います。
(過去の記事:https://egonsouzoku.com/magazine/magazine-266/)
2. 今回の民法改正のポイント
今回の民法改正により、遺産分割協議において特別受益や寄与分を主張できる期限が「相続開始の時から10年」になりました。
注意して頂きたいのは、遺産分割協議自体に期限が設定されたわけではない、ということです。遺産分割協議は、上記の民法改正前と同様、引き続き期限の制限はありません。しかし相続開始後10年間経過した場合は、遺産分割協議において特別受益及び寄与分の主張ができなくなったというのが、今回の改正のポイントです。
3. 施行時期と経過措置
上記の民法改正は、令和5年4月1日から施行されています。
なお、今回の改正は、施行日である令和5年4月1日よりも前に相続が開始した遺産の分割についても適用される点に注意してください。
とはいえ、施行日の時点で既に相続開始から10年を経過している場合に、直ちに遺産分割協議における特別受益及び寄与分の主張が制限されるわけではありません。法律は、このような不意打ちを防止するための経過措置も定めています。すなわち、相続開始の時から10年を経過する時、又は施行時(令和5年4月1日)から5年を経過する時のいずれか遅い時までは、遺産分割協議において特別受益及び寄与分の主張が認められることになります。少々複雑ですので、具体例を挙げて説明します。
ケース①:平成20年4月1日に相続が開始した場合(施行日の時点で相続開始から10年が経過している場合)
ケース①の場合、施行日である令和5年4月1日の時点で、既に相続開始から10年が経過しています。施行日よりも前に相続が開始した遺産分割にも今回の改正が適用される、という原則をそのまま当てはめれば、施行日以降は特別受益及び寄与分が全く主張できないことになります。しかし、経過措置により、相続開始の時から10年を経過する時又は施行時から5年を経過する時のいずれか遅い時までは、遺産分割協議において特別受益及び寄与分の主張が認められることになります。
ケース①の場合、相続開始から10年経過した時点は平成30年4月1日、施行時から5年を経過する時点は、令和10年3月31日ですので、より遅い時点である令和10年3月31日までは、例外的に遺産分割協議において特別受益及び寄与分の主張が認められることになります。
ケース②:平成27年4月1日に相続が開始した場合(施行日の時点では相続開始から10年が経過していない場合)
ケース②の場合、施行日である令和5年4月1日の時点では、まだ相続開始から10年が経過していません。しかし、施行日よりも前に相続が開始した遺産分割にも今回の改正が適用されるという原則をそのまま当てはめれば、相続開始から10年が経過した令和7年4月1日よりも後は、遺産分割協議における特別受益及び寄与分の主張が制限されることになります。この場合、施行日から2年以内に急いで特別受益及び寄与分の主張しなければならなくなります。しかし、経過措置により、相続開始の時から10年を経過する時又は施行時から5年を経過する時のいずれか遅い時までは、遺産分割協議において特別受益及び寄与分の主張が認められることになります。
ケース②の場合、相続開始から10年経過した時点は令和7年4月1日であり、施行時から5年を経過する時点は令和10年3月31日ですので、より遅い時点である令和10年3月31日までは、例外的に遺産分割協議において特別受益及び寄与分の主張が認められることになります。
4. 最後に
遺産分割協議において特別受益や寄与分を主張できる期限が「相続開始の時から10年」に制限された民法改正が、令和5年4月1日から施行されました。この改正は、施行日前の相続にも適用されます。経過措置により、施行日前の相続にも一定期間の猶予が認められていますが、期限直前に慌てることがないように、できるだけ早めに専門家に相談し、余裕をもって遺産分割協議を開始されることをお勧め致します。
以 上