第6回 農地の相続をめぐる問題

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山下 昌彦

2024-03-08

第6回  農地の相続をめぐる問題

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1. はじめに

相続財産に農地が含まれている場合、宅地等の場合と異なる手続が必要となります。また、農地を相続したことによる特有の問題もありますので、今回は農地の相続をめぐる問題についてご説明します。

2. 農地を相続する場合

(1) 相続登記
農地を相続する場合も、宅地を相続する場合と同様に相続登記を行う必要があります。
令和6年4月1日より相続登記申請が義務化され、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ所有権の取得をしたことを知った日から3年以内に相続登記申請しなければならなくなることは、以前の記事でご紹介したとおりです。
https://egonsouzoku.com/magazine/magazine-1472/

(2) 農業委員会への届出
平成21年12月15日より、相続により農地を取得した場合において、当該農地が所在する市町村の農業委員会への届出が義務化されました(農地法第3条の3)。
なお、農地法第3条の3は「遅滞なく」届け出なければならないと規定していますが、この「遅滞なく」とは、農地等についての権利を取得したことを知った時点からおおむね10ヶ月以内の期間とされています(農林水産省「農地法関係事務に係る処理基準について」)。
農業委員会への届出を怠った場合、10万円以下の過料に処せられる場合がある点にご注意下さい(農地法第69条)。

なお、相続人が遠隔地に居住し、自らが農地を耕作したり、管理したりすることができない場合、農地の処分を検討されるかもしれません。しかし、農地の処分には農業委員会の許可が必要となります。例えば、当該農地を農地として売却する場合(買主が一定の要件を充たす農家や農業生産法人に売却する場合)であっても、当該農地が所在する市町村の農業委員会の許可が必要となります(農地法第3条)。また、農地を宅地など農地以外に用途変更して自ら利用する場合には、当該農地が所在する都道府県の知事の許可が必要となりますし(農地法第4条)、その用途変更をして他者に売却する場合にも、同様に都道府県知事の許可が必要となります(農地法第5条)。

上記のとおり相続した農地は、自ら農地として利用しない限り、宅地の場合には見られない手続が必要となります。また、遠隔地に居住する場合は、農地の処分を検討せざるを得ないと思いますが、農地の買い手や借り手を自分で見つけるのは大変です。
このような場合、前述の農地法第3条の3に基づく農業委員会への届出書には、当該農地の買い手や借り手のあっせん等の希望を記載する項目がありますので、届出の際にそのようなあっせんを農業委員会にご相談されるのもよいかと思います。

3. 農地の相続を放棄する場合

(1) 農地のみの相続放棄をすることはできません
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産に関する相続の権利の一切を放棄することを意味します。したがいまして、相続財産に農地以外が含まれている場合に農地のみを相続放棄することはできず、農地を含むすべての相続財産についての相続権を放棄しなければならない点には、ご注意ください。

(2) 相続放棄をしても、一定期間農地を管理しなければなりません

改正民法940条(令和5年4月1日施行)
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

上記民法の規定に基づき、農地を含む相続財産の相続を放棄した場合であっても、相続を放棄した者が相続放棄の時点で農地を現に占有している場合、他の相続人や相続財産清算人に当該農地を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、当該農地を保存しなければなりません。

4. まとめ

相続財産に農地が含まれている場合、相続についての農業委員会への届出が必要となり、またその後に農地を処分する場合にも、農業委員会の許可や都道府県知事の許可が必要になる等、宅地の場合には見られない手続が必要となります。
農地を相続する可能性がある場合、予め上記の手続等を理解され、早めに準備や対策をとられることをお勧めします。

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弁護士

京都大学法学部卒業
甲南大学法科大学院修了

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