借地権と相続について、ケースに基づきご説明します。
<CASE①>
XはAから甲土地を賃借し、甲土地上にX名義の乙建物を建て、Xの甥Yと一緒に暮らしている。Xは自身が死亡した場合、甥Yに自宅を譲りたいと考えている。なお、Xに妻はなく、相続人は長男Zのみである。
借地権とは
XはAから甲土地を借り、その土地上に乙建物を所有していますが、このような建物所有を目的とする土地賃借権のことを借地権といいます。借地権の定義については、借地借家法に定められていますが、借地権とは、「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」をいいます(借地借家法第2条第1号)。ここで、地上権と賃借権という言葉が登場しますが、両者の違いは、地上権が誰にでも主張することができる権利(このような権利を「物権」といいます。)であるのに対し、賃借権は契約当事者間でしか主張することができず、権利者は相手の承諾がないと自由に処分することができない権利(このような権利を「債権」といいます。)をいいます。どちらの権利についても、建物を所有する目的で他人の土地を借りる権利という点では共通しますが、我が国では利用されているのはほとんどが賃借権です。CASE①の例でも甲土地に設定されているのは土地賃借権になります。
【借地借家法】
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。
二~五 略
借地権付き建物を相続人以外に譲渡したい場合
Xが借地権付きの乙建物を甥Yに譲り渡したい場合、どのような方法が考えられるでしょうか。主な方法としては、乙建物を甥Yに遺言で贈与する(遺贈)ことが考えられます。
もっとも、法律上、賃貸人に無断で賃借権を譲渡することはできないとされており(民法612条1項)、また、一般的な賃貸借契約においても、賃貸人の承諾なくして賃借権を譲渡できない旨が定められています。仮に、賃借権を無断で譲渡してしまった場合、賃貸借契約の解除事由に該当することになります(民法612条2項)。
【民法】
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
CASE①では、Xが甲土地上の乙建物をYに譲渡する場合、甲土地の賃借権もまたYに譲渡されることになりますので、X(借地人)は、甲土地の賃貸人(地主)であるAから承諾を得ておく必要があります。後で争いになることを避けるためには、承諾は書面に残しておくのが望ましいと言えます。なお、地主が賃借権の譲渡を認める際には、借地人から地主に対して承諾料が支払われるのが一般的です。
では、地主が賃借権の譲渡を承諾しない場合はどうすればよいでしょうか。
この点、賃借権の譲渡に必ず地主の承諾が必要という原則を貫いた場合、借地上の建物を自由に譲渡できないという不都合が生じてしまいます。そこで、借地借家法では、借地人が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合、その第三者が賃借権を取得しても地主に不利になるおそれがないにもかかわらず、地主が賃借権の譲渡を承諾しないときには、裁判所が、借地人の申立てにより、地主の承諾に代わる許可を与えることができる旨が定められています(借地借家法19条1項前段)。
そして、裁判所がこのような許可を与えるか否かは、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情が考慮されて決められます(同条2項)。なお、裁判所が地主の承諾に代わる許可の裁判をする場合でも、裁判外の慣行を考慮するのが衡平であるため、裁判所は、賃借人からの一定の金銭支払(承諾料等の支払)を条件とすることができるとされていますので(同条1項後段)、基本的には、裁判所は、承諾料等の支払を条件に許可を出しています。
【借地借家法】
(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
第十九条 借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。 この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。
2 裁判所は、前項の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。
3~7 略