<ケース>
令和3年2月1日に、Aさんが亡くなりました。Aさんの相続人は、妻のYさん、3人の子供(X1さん(長女)、X2(長男)、X3(次女))です。また、Aさんの生前の財産は、1億2000万円の現金のみで、負債などは特にありません。令和3年2月7日、Aさんが亡くなる前に、「すべての財産を妻に相続させる。」との遺言を残していたことが発覚しました。この場合において、子ども3人は一切、財産を取得できないのでしょうか。
はじめに
結論から言いますと、子どもたち3人(X1、X2,X3)は、Aさんの財産をそれぞれ1000万円ずつ請求することが可能です。それを可能にするのが、遺留分制度です。今回は、遺留分制度の概要をご紹介し、次回も遺留分についてご紹介予定です。
遺留分制度は、平成30年の民法改正により、大きく変更されましたが、改正後の制度に基づき解説を行います。改正後の制度の適用は、令和元年7月1日(月)以降です。
遺留分制度について
遺留分制度は、ある一定の相続人に対して、遺留分に相当する利益(金銭的価値)を相続財産から取得できる地位を保証するものです。今回、子どもたち3人は、遺留分の割合に応じて、一定の財産をYに対して請求することができます。
まず、遺留分の権利は、すべての相続人に与えられているわけではなく、兄弟姉妹以外の相続人、具体的には、配偶者、子ども、亡くなった方のご両親など(正確には、「直系尊属」といいます。)に限定されています。今回のケースにおいて、Xさんたちは、Aさんの子どもなので、遺留分を有します。
次に、遺留分の割合ですが、まずは、①遺留分を有する人全員が総額でどの程度までの財産を受け取ることができるかを決めて(民法1042条1項、1043条1項)、②その決まった総額を、各個人にどの程度分配するのかを決めるという(民法1042条2項、900条)、2段階になっています。
まず、今回のケースでは、遺留分を有する人全体でもらえる財産は、財産の2分の1となります(民法1042条1項2号)。そのため、1億2000万円の半分である、6000万円が総額です。
次に、遺留分の権利を有するのは子ども3人であり、今回は、法定相続分として、それぞれ1/6という割合を有することになります(民法900条1号、4号)。具体的には、妻の相続分が1/2であり、残りを子どもが取得することになりますが、3人いるので、1/2×1/3=1/6という計算をします。
したがって、子どもX1、X2、X3は、それぞれ1000万円を、Yから取得することができます。
上記で引用した民法の条文は、以下のとおりです。
(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
2 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額
二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額
三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額
(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
(遺留分を算定するための財産の価額)
第千四十三条 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 略
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 略
三 略
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
次回予告
遺留分制度の基本は、前記のとおりとなりますが、例えば、以下のような場合にはどうなるのでしょうか。
・Aさんが、生前、知り合いのBさんに、3000万円の現金を贈与していた場合にはどうなるのか。
・Aさんは現金の他に不動産をもっており、Aさんは愛人に対して、「私が、死んだことを条件に不動産を贈与する」ということを約束し、その内容の契約書があった場合にはどうなるのか。
・Aさんが有していた1億2000万円の他に、死亡保険金の受取人としてYさんが指定されていた場合についてはどうなるのか。
・今回は、「すべての財産を妻に相続させる。」であったが、妻ではなく「すべての財産をCに相続させる。」であった場合には、妻も遺留分の請求をすることができるのか。
・X1、X2、X3さんが、Yに対して、遺留分の請求をしたのが、Aが死亡した令和3年2月1日から、3年が経過した令和6年2月30日である場合はどうなるのか。
これらの点について、次回ご紹介します。