第38回 株式と相続①

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熊本 健人

2021-02-26

第38回 株式と相続①

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今回からは、相続財産に株式が含まれる場合の手続きや問題点などについて解説していきます。

<CASE>
Aは、非上場会社である甲社の代表取締役である。甲社の発行済株式は100株で、Aはそのうち80株を保有している。残りの20株は、Aの子BとCがそれぞれ10株ずつ保有している。Bは甲社の取締役であるが、Cは役員ではない。なお、Aに妻はなく、相続人はBとCの2名である。
Aが死亡し、甲社の株式が相続された。

株式は遺産分割の対象になるか

株式は遺産分割の対象になるでしょうか。最高裁の判例では、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない旨判示されていますので、株式は遺産分割の対象になるものと考えられています。なぜなら、株式には、株主が、株主たる地位に基づいて剰余金の配分などを受ける権利(このような権利を「自益権」といいます。)と株主総会で議決権を行使する権利(このような権利を「共益権」といいます。)が含まれるため、このような権利の内容や性質からすると、当然に分割される可分債権であると考えることは妥当ではないからです。

遺産分割が未了の株式はどのように扱われるのか

では、株式が遺産分割の対象になるとして、遺産分割が未了の株式についてはどのように扱われるのでしょうか。
結論から述べますと、遺産分割未了の株式は、相続人全員で共有されることになります(法律上、正確には「準共有」といいます。)。

CASEの例を見ると、Aが保有していた甲社の株式80株がBCにそれぞれ40株ずつ当然に分割されるのではなく、80株全体について、BCの共有になるということです。

では、株式を共有する相続人は、遺産分割が完了するまで株式についての権利を行使することはできないのでしょうか。
会社法では、次のとおり規定されています。


(共有者による権利の行使)
第百六条 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。


要するに、株式についての権利を行使する場合には、株式の共有者は、権利行使する者1人を共有者の中から定め、会社に対して通知しなければならないということです。 
他方で、会社としては、通知があった者に対する権利行使さえ認めれば、それで足りることになります。

CASEの例を見ると、Aが保有していた甲社の株式80株について、例えば、遺産分割協議前に、BC間でBを権利行使者に指定するとの合意があり、その旨を甲社に通知すれば、当該80株全てについて、Bは権利行使することができます。また、甲社としても、Bに対し、80株について権利行使を認めればよいことになります。

権利行使に会社の同意がある場合はどうなるか

権利行使者の指定、通知がない場合であっても、会社の同意さえあれば、株式の共有者は、株式について権利行使することができます(会社法106条但し書)。要するに、この会社法の規定は、共有株式の権利行使を会社が円滑に処理できるようにするための会社の便宜を図る規定であるため、会社がその利益を自ら放棄する場合には、権利行使を認めても問題ないということです。
もっとも、会社が権利行使者以外の共有者の権利行使に同意したとしても、権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでない場合は、その権利行使は適法とはなりません(最判平成27・2・19)。そのため、このような場合で他の共有者に損害が生じた場合には、株主総会決議取消しの訴えや損害賠償請求を行うことが可能になります。

CASEの例を見ると、Aが保有していた80株について、未だBC間で権利行使者に関する合意ができておらず甲社への通知がなされていない場合であっても、甲社の同意さえあれば、Bが80株全てについて権利行使することができます。
もっとも、上記判例からすると、このような権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものではない場合には、不適法になってしまいます。
すなわち、例えば、Bが甲社の同意を得た上で、Aが保有していた80株全てについて議決権を行使した場合、不適法になってしまう可能性があります。なぜなら、議決権の行使は、原則として、管理行為(民法252条本文)に当たると考えられているところ、管理行為は、持ち分の過半数で決定しなければならないからです。
つまり、CASEの例では、BCの相続分は各2分の1であるため、BはAが保有していた80株について相続分に応じた持ち分の過半数を取得することができず、本来は、80株全てについて議決権を行使することはできないのです。それにもかかわらず、甲社が80株全てについてBに議決権の行使を認めることになると、このような権利行使は不適法であるということになります。そのため、Cに損害が生じた場合には、Cは、株主総会決議取消の訴えや損害賠償請求を行うことができるのです。

(共有物の管理)
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。


なお、権利行使者の指定、通知がない場合であっても、特段の事情がある場合には、株式の共有者による権利行使が認められることがあります(最判平成2・12・4)。

例えば、CASEの例で、甲社が権利行使者の指定、通知がないにもかかわらず、Bを権利行使者と認めたうえで株主総会決議を行った場合、その後、Cから株主総会決議が不存在であることの確認を求める訴えがあったとしても、かかる訴訟の中で、甲社は、権利行使者の指定、通知がないことを理由に、Cに対してこのような訴えを行うことができないとは主張できません。同様に権利行使者の指定、通知がないにもかかわらず、Bについては権利行使を認める一方で、Cに対しては権利行使を認めないといったように、扱いを異にすることは甲社としては矛盾した態度であり、信義則に反し、上記判例でいう「特段の事情」があると考えられるからです。

次回は、権利行使者の指定方法や株主名簿の名義書換の手続について見ていきます。

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熊本 健人

学習院大学法学部卒業
神戸大学法科大学院修了

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