第32回 配偶者の居住の権利(その4):配偶者居住権④

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新留 治

2020-12-04

第32回 配偶者の居住の権利(その4):配偶者居住権④

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はじめに

前回、被相続人(遺言者)の妻又は夫である配偶者(以下、「配偶者」といいます。)の居住の権利である「配偶者居住権」の成立要件の充足判断に窮する可能性のある事例についてご紹介しました。
配偶者居住権の成立要件は、従前ご説明したとおり、①配偶者が被相続人の死亡時に被相続人の所有する建物に居住していたこと、②その建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割や遺贈がなされること、の二つで、これらの要件を充足することで、配偶者は、配偶者居住権を取得することになります。それでは、配偶者居住権とは、具体的にどのような効果を有するのでしょうか。抽象的には、配偶者が従前居住していた被相続人名義の家屋(居住建物)に住むことができる権利といえますが、権利といえども一般的なアパートの賃貸借などと同じく、また、居住建物の所有者の負担とのバランスも考慮して、いくつかの義務も課されることとなっています。
そこで、以下では、配偶者居住権の効果について述べていきます。

居住建物を使用又は収益すること

 配偶者は、無償で居住建物の使用又は収益をすることができ(民法第千二十八条第一項)、居住建物の所有者は、この配偶者による居住建物の使用・収益をやめさせることができず、受け入れる必要があります。ここでの「収益」とは、基本的に居住建物を第三者に賃貸することで賃料収入を得ることをいいます。もっとも、配偶者が居住建物を第三者に賃貸するためには、後述するとおり、居住建物の所有者の承諾が必要となります。

用法遵守義務・善管注意義務

配偶者は、従前の用法に従って、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければなりません。もっとも、配偶者の居住権を保護するという制度趣旨に鑑みて、従前配偶者が使用していなかった部分や居住の用に供していなかった部分についても、居住用に使用することは可能とされています。民法上の規定は以下のとおりです。
(配偶者による使用及び収益)

第千三十二条 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。
 居住建物のうち、従前居住用に使用していなかった部分を売店や飲食店等の営業用に変更して利用することは、前記「収益」には含まれません。しかしながら、このような利用形態の変更は、上記規定のとおり、「従前の用法に従い」「居住の用に供すること」という文言に反することになりますので、居住建物の所有者に無断ですることはできません。

権利の譲渡及び無断で第三者に居住建物を使用又は収益させることの禁止

配偶者居住権は、配偶者の居住権を保護するために特に認められた権利であるため、配偶者以外の第三者にこの権利を譲渡することはできません。また、配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、配偶者以外の第三者に居住建物の使用又は収益をさせることができません。民法上の規定は以下のとおりです。

(配偶者による使用及び収益)
第千三十二条 
2 配偶者居住権は、譲渡することができない。
3 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。


もっとも、所有者の承諾なく第三者に使用又は収益させることができないということの裏返しとして、配偶者は、所有者の承諾を得さえすれば、第三者に居住建物の使用又は収益をさせることができることになります。配偶者にこのような権限が認められた理由は、配偶者が遺産分割協議等で配偶者居住権を取得する一方で、後に自ら介護施設に入居し、居住建物に居住することがなくなるなどの事情の変更等が生じた場合、配偶者が、配偶者居住権の価値を回収する手段を確保するためとされます。

居住建物の修繕

 居住建物の修繕が必要な場合には、まず配偶者において修繕することができ、居住建物の所有者は、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときに修繕をすることができることとされています。そして、配偶者は、居住建物について修繕を要する場合、所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならないとされています。民法上の規定は以下のとおりです。

(居住建物の修繕等)
第千三十三条 配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。
2 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。

3 居住建物が修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。)、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。

 上記のような通知が必要とされる理由は、居住建物の所有者は居住建物の保存に関して、できるだけ修繕をしたいという意向を持つ一方で、実際に居住していない所有者では、修繕の要否についての情報を容易に取得できず、修繕が必要な状況であるにもかかわらず、これに気付かないということを防ぐためにあります。

 配偶者居住権の効果に関する説明は以上になります。次回も、配偶者居住権の効果についてご紹介します。

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新留 治

神戸大学法学部卒
神戸大学法科大学院修了

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