第54回 具体的事例で見る「生前の遺留分放棄」

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江幡 吉昭

2020-06-30

第54回 具体的事例で見る「生前の遺留分放棄」

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今回は、生前における遺留分の放棄について、具体的事例をご紹介します。

“遺留分(※)が放棄できる”ということ自体知らない方も多い(もしくは実務でどのようにされているか)と思いますので今回ご紹介します。
(※)遺留分とは、相続人が最低限の遺産を確保するために設けられている制度で、兄弟姉妹以外の相続人には相続財産の一定割合を取得できる権利があります。

【事例】
父・母・長男・長女の4人家族で東京都在住。
父が亡くなり、相続の手続きは2019年の年末にすべて終わりました。
父は生前、個人事業で商売を営んでおり、長男が継いでいます。
長女は専業主婦。年末に父の相続が終わったところで、長女からこんな話が出ました。
「母さんが死んだときには私は何もいらないよ。家とかも建ててもらったし。」
ずいぶん無欲な長女に思えますが、以前に母や長男と確執があったりして、正直今回の相続を機にもう家族とは関わりたくないという思いがあったようです。とはいえ、遺留分というのがありますので、もし母が亡くなったときには「長女の法定相続分は2分の1、遺留分は4分の1」となります。長女はこのどちらもいらないという話なのです。

そこで、我々は母(以下Aさんとします)に対して遺言の作成と遺留分の放棄をご提案しました。
Aさんが遺言を作成するのと同時に、長女には家庭裁判所へ「生前の遺留分放棄の申し立て」をやってもらいました。
2020年3月に申し立て書類を郵送し、それから約1か月後、家庭裁判所から「照会書」という書面が長女に届きます。その内容は「遺留分放棄の意思確認や今までどのような財産を親からもらったか」などといった10個程度の質問が書いてあるものでした。「すでに親から自宅をもらっている」「毎年、生前贈与で100万円程度もらっている」などの回答を記入のうえ郵送し、それからまた1か月後の5月、家庭裁判所における審判の結果が郵送で長女のもとに到着しました。無事に、生前に遺留分放棄をすることが認められました。
申し立てから要した期間はおよそ2か月。郵送でのやりとりのみです。遺留分放棄の手続き自体は難しいものではありません。

これにてAさんが亡くなったときに、長女は遺留分もなく、Aさんの遺言でも「長女には相続させない」ということを明言していますので二重に対策を取ったことになります。
Aさんのすべての財産が長男に引き継がれるという道筋がはっきり作られたのです。

「遺留分放棄なんて本当に家庭裁判所に認められるの?」という質問をよく受けます。しかし、遺留分放棄の申し立て自体は、ある程度の財産をすでにもらってさえいれば認められることが多いものです。
申し立て自体の費用もプロに頼んでも数万円で済みますので非常に安価です。よって、兄弟姉妹間で相続でモメることが想定されるのであれば、事前に「遺言書作成+遺留分放棄」はセットで検討しておいたほうがよいと思います。なお、当然のことながら遺留分という権利を相続人自らが進んで放棄することが必須ですので、放棄を望まない人にはこの手続きができません。ここは注意が必要です。

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江幡 吉昭

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