第17回 相続放棄と死亡保険金・死亡退職金

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油良 俊寛

2019-10-18

第17回 相続放棄と死亡保険金・死亡退職金

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相続放棄をする場合の死亡保険金・死亡退職金の受け取り、あるいは生命保険契約の名義変更について、ご質問・ご相談を受けることがよくありますので、今回ご紹介いたします。
  

Q.相続放棄をする場合、死亡保険金を受け取ることはできますか?

A.契約者と被保険者が同一人で、死亡保険金受取人が被相続人(亡くなった人)以外の場合、受け取る死亡保険金は被相続人の財産ではなく、保険金受取人の固有の財産となります。よって、相続放棄をしても死亡保険金は受け取ることができます。
例えば、契約者・被保険者が夫、死亡保険金受取人が妻の場合、妻が受け取った死亡保険金は妻の固有の財産になります。死亡した夫の相続財産ではないため、妻は相続放棄をしても死亡保険金を受け取ることができます。
ただし、この死亡保険金は、税制上「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。
なお、相続放棄をした場合は相続人とはみなされないため、死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)の適用を受けることはできません。

死亡保険金について、裁判所も「生命保険は被保険者である被相続人がなくなった瞬間に、保険金受取人にお金を渡す契約が発生するものであるから、相続財産には含まれない」との立場をとっています。つまり、死亡保険金は生命保険契約により定められた保険金受取人の固有の権利・財産として受け取ることができます。よって、相続放棄をした相続人であっても、死亡保険金を受け取ることができるというわけです。 

Q.相続放棄をする場合、死亡退職金を受け取ることができますか?

A.死亡退職金が、どのような決まりごとになっていて、誰に支払われるのかがポイントになってきます。つまり、一律の結論はなく、死亡退職金が相続財産に含まれるかどうかを判断しなければなりません。
相続財産に含まれるかどうかは、その会社の退職金規定がどのように定められているかによります。
つまり、退職金規定の解釈によって、死亡退職金が相続財産に含まれないと判断できる場合は、相続放棄をしても死亡退職金を受け取ることができます。
会社の規模などによってさまざまですが、死亡退職金は就業規則や退職金規定によって、その金額や支給先などが定められています。
「死亡退職金については、遺族へ支給する。」という内容の規定が一般的でしょう。
ちなみに、公務員の場合は、国家公務員退職手当法(※以下参照)で定められており、死亡退職金は相続財産ではなく、受取人固有の財産として受け取ることができるので、受取人である相続人が相続放棄をしていた(あるいはする)としても死亡退職金を受け取ることができます。

(※参考)国家公務員退職手当法より
“この法律の規定による退職手当は、常時勤務に服することを要する国家公務員(中略)が退職した場合に、その者(死亡による退職の場合には、その遺族)に支給する。”

一般の会社でも、就業規則や退職金規定によって、これに準じた記載であれば、受取人固有の財産として死亡退職金を受け取ることができます。このような規定による死亡退職金の支給であれば、相続放棄が問題になることはありません。よって、死亡退職金は相続財産に含まれないことが一般的であり、相続放棄をしても受け取ることができることが多いでしょう。もちろん、実際に受け取る場合は、きちんと会社の就業規則や退職金規定をもとに、相続財産に含まれないことを確認することが重要です。

■もし退職金規定などに定めがない場合は?
死亡退職金の支給について、退職金規定による定めなどがない場合、あるいは“退職金の受給権者は被相続人本人”となっている場合は、その死亡退職金が相続財産に含まれると判断される場合があります。そして、相続財産に含まれると判断された場合、死亡退職金を受け取ってしまうと、相続について“単純承認した”ことになり、相続放棄をすることができなくなってしまう可能性が高いでしょう。
ただ、退職金規定に定めがないと必ず相続財産に含まれるというわけではなく、相続財産に含まれないと判断される場合もあります。(過去にも判例あり)

ちなみに、死亡後の未払い給与(給与の締め日などによる)についてですが、亡くなった方の給与は、税務上、所得であり、すなわち相続財産になります。したがって、未払い給与を受け取ることは、単純承認になってしまう(=相続放棄できない)可能性が高いので注意が必要です。
 

Q.相続放棄をする場合、生命保険契約の名義変更をすることができますか?

A例えば、契約者=夫、被保険者=妻や子、となっている生命保険契約で、夫が死亡したため、契約者を妻や子に名義変更するケースです。
夫が契約者になっているのであれば、その生命保険契約の権利(例えば解約返戻金という財産やその請求権)は夫にあります。相続放棄をするのであれば、その権利を引き継ぐことはできないため、名義変更をすることはできないでしょう。名義変更をしてしまった場合、“単純承認した”ことになり、相続放棄をすることができなくなる可能性が高いです。また、名義変更ができないからといって、相続放棄をする人がその生命保険契約を解約することも当然できません。 

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税理士

監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)にて東証1部上場の大手商社などの金融商品取引法監査に従事
税理士法人ゆびすいにて相続税、法人税、所得税など各種税務案件に従事
2017年アステルフォース税理士事務所を開設、資産税を中心に活動し現在に至る
株式会社アレース・ホールディングス取締役

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