第1回 複数の遺言書がある場合の考え方

第1回 複数の遺言書がある場合の考え方

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1 複数の遺言書

自分の死後の財産を誰にどのように分配するかは難しい問題です。何度も悩みながら複数の遺言書を作成する方も珍しくないと思います。
そこで、今回は複数の遺言書が発見された場合の考え方についてご紹介します。

2 ケース

Aさんの死後に、長女Bさんと長男Cさんが遺品を整理していたところ、以下の2つの遺言書を発見しました。なお、Aさんは、亡くなった時点で、マンション(甲)、土地(乙)及び建物(丙)を所有していました。
・遺言書1(2020年7月1日付け):マンション(甲)と土地(乙)をBに与える
・遺言書2(2022年5月1日付け):土地(乙)と建物(丙)をCに与える
BさんとCさんには、遺言書に基づいて、どの資産が与えられることになるでしょうか。

3 後遺言優先の原則

「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。」(民法1023条1項)と規定されています。
よって、前の遺言と後の遺言が抵触する部分については後の遺言が優先し、抵触しない部分についてはそれぞれが有効となります。
 ここでいう「抵触」とは、前の遺言を失効させなければ、後の遺言を実現することができない程度に、内容が抵触することをいいます。
「抵触」には、客観的に両立しうる場合であっても、後の行為が前の遺言と両立させない趣旨のもとになされたことが明らかな場合も含まれます(大判昭和18・3・19)。この判例の事案は、妻の死後、同棲していた女性に対して、同棲の継続を条件として1万円を遺贈する旨の遺言をした男性が、その後、その女性から求められて5,000円を生前贈与したというもので、裕福な男性であれば、双方ともに両立しうるが、その女性がそれ以上の金銭を要求しないと約束していたことから、上記の判断がされました。両立させない趣旨かどうかは、様々な事情を考慮して判断されます。

4 ケースの回答

遺言書1と遺言書2を比較すると、「マンション(甲)をBに与えること」と、「建物(丙)をCに与えること」は両立し、「抵触」がありません。よって、これらの部分についてはどちらも有効です。
 他方で、「土地(乙)をB(単独)に与えること」と、「土地(乙)をC(単独)に与えること」は、両立せず、前者を失効させなければ、後者の実現ができません。よって、この部分は遺言書1と遺言書2で「抵触」していると考えられます。したがって、遺言書1(2020年7月1日付け)より後に作成された遺言書2(2022年5月1日付け)が優先し、「土地(乙)をBに与える」という部分が撤回され、「土地(乙)をCに与える」という部分が有効となります。
 なお、本記事では遺言の有効性のみについて解説をしています。遺言や相続に関する法律関係全体を十分に検討するためには、関連する事実を詳細に確認し、遺留分侵害請求権等の関連する権利等を適切に考慮する必要がある点にご留意ください。

5 まとめ

上記のように、複数の遺言書が存在する場合には、それぞれの内容の抵触について検討する必要があります。

※本記事の内容について細心の注意を払っていますが、その正確性及び完全性等の保証をするものではありません。本記事はその利用者に対し法的アドバイスを提供するものではありません。したがって、本記事の利用によって利用者等に何らかの損害が発生したとしても、本ウェブサイトの提供者、本記事の著者及びその他の本記事の関係者は、かかる損害について一切の責任を負うものではありません。

以上

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弁護士

早稲田大学法学部卒業
早稲田大学法科大学院修了

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