第61回 遺言書の偽造について(その②)

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益子 真輝

2023-08-08

第61回 遺言書の偽造について(その②)

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1 概要

遺言書には、自筆証書遺言や、公正証書遺言などがあります。自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自分で書き、押印して作成する方式の遺言です。一方、公正証書遺言とは、遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言です。
また、相続人が遺言書を「偽造」、「変造」、「破棄」又は「隠匿」することは、相続欠格事由に該当するため、当該相続人は、相続人となることができず、最低限の取り分である遺留分も含め、相続財産を一切受け取ることができません(民法第891条第5号)。今回は、「偽造」に関連して、「偽造」又は「変造」に該当しうる、自筆証書遺言に添付する「遺産目録の差し替え」問題についてご紹介します。

2 自筆証書遺言の方式緩和

 自筆証書遺言は、遺言書の全文を、「自筆」、つまり、自分で書かなければなりませんでした。もっとも、民法968条2項が2019年1月13日に施行されたことで、「自筆」の例外として、自筆証書遺言における相続財産の特定に必要な事項(財産目録)は、パソコンによる作成や遺言者以外の者による代筆のほか、不動産の全部事項証明書や預貯金通帳の写しの添付が認められるようになりました。もっとも、今回の改正は,自筆証書に財産目録を「添付」する場合について規定するものであり、自書によらない財産目録と、本文が記載された自筆証書とは別の用紙で作成する必要があります。また、遺言者は、財産目録の各頁に署名押印する必要があります。
 一方で、当該押印は本文に押印された印影と同一のものである必要はなく、また「財産目録」も含めた遺言一式をホッチキスなどで綴じる必要まではありませんので、遺言者以外の者が、財産目録を勝手に作成し各頁に署名押印を行い、財産目録を差し替えるリスク、つまり、「遺産目録の差し替え」の問題が存在します。
そこで、かかるリスクに対応する方法についてご紹介します。

3 自筆証書に財産目録を添付する方法

 まずは、上記リスクに対処する方法として、本文に押印する印鑑と財産目録に押印する印鑑は同一の印鑑を用いるようにし、また財産目録を添付する際には、本文と財産目録とをホッチキスで止めることや契印したりすることが挙げられます。これにより、遺言書の一体性が明らかとなり、差し替えられるリスクを下げることができます。

4 自筆証書遺言書保管制度の利用

次は、自筆証書遺言書保管制度の利用です。自筆証書遺言書保管制度は、2020年7月10日から始まりました。この制度は、遺言者が、無封の遺言書をもって最寄りの法務局(遺言書保管所)に行き、担当職員(遺言書保管官)に遺言者本人であることを証明して遺言書の保管を申請すると、法務局で遺言書を預かり、データ保存をしてくれる制度になります。
 また、当該制度は、遺言者が死亡する前は、遺言者のみが閲覧・撤回をすることができますので、「遺産目録の差し替え」の問題は起こりにくくなります。
 なお、遺言者の死亡後については、遺言者の相続人や受遺者等は、遺言書情報証明書の交付請求を行うことや、遺言書原本の閲覧請求をすることができます。さらに、自筆証書遺言は、検認を行う必要がありますが、当該制度を利用すれば、検認手続きも不要となります。
ただし、自筆証書遺言書保管制度は、あくまで遺言書を保管する制度ですので、遺言書が有効であることを確認する制度ではない点は注意が必要です。
以上

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益子 真輝

同志社大学法学部法律学科卒業
神戸大学法科大学院修了

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