第15回 遺産分割<協議分割>

第15回 遺産分割<協議分割>

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前回は遺産分割の総論として「遺産分割の基準」についてお話しました。
遺産分割の基準は民法の906条に規定されていて、相続人間の公平を考慮するために、遺産の種類や性質、相続人の年齢、職業、心身状態、生活状況などを加味して相続財産の分配をおこなう、ということでしたね。今回も引き続き遺産分割のお話です。
まず、前回お話した通り、被相続人が死亡して共同相続人によって共有された財産を各相続人に分割することを遺産分割といいますが、その方法は、①遺言による指定分割(民法第908条)、②協議による遺産分割(民法第907条(1項))、③調停による遺産分割(民法第907条2項)、④審判による遺産分割(家事審判法第26条)の4つがあります。
今回はそのうち、②の協議分割のお話です。協議分割については民法907条で規定されています。

907条 1.共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
(※907条には2項、3項もありますが、調停分割等の話なので、ここでは割愛します)

まず、遺産分割を「協議」するのは誰でしょうか?共同相続人、となっていますよね。もちろん相続人が1人しかいない時は分割することはありませんので、相続人が複数いる場合だけ協議分割の話が出てくることになります。その共同相続人全員による同意があれば、法定相続分や遺言による指定と異なる内容でも遺産分割が可能になります。その遺産分割協議の結果として、将来その内容で再度もめない為に作成しておきたいのが、「遺産分割協議書」です。おぼえていらっしゃいますでしょうか?遺産分割協議書は相続を学習するときに必ず出てきますよね。「全員の署名・押印が必要」なものでしたね。
さて、法定相続分と異なる内容でも可能、ということですが、これは例えば「相続発生時の相続人が配偶者と被相続人の兄が1名だった」とした場合、法定相続分は配偶者が4分の3、被相続人の兄が4分の1ですが、その2名の相続人の協議の結果、配偶者が4分の1、被相続人の兄が4分の3とする分割に双方が同意すれば、それで何ら問題ない、ということです。これが協議分割の特長です(もちろん、詐欺、強迫、虚偽等による分割は無効ですよ)。 このように、協議分割によって遺言内容と異なる分割が行われることも認めています。被相続人の最終意思である遺言ではありますが、それを必ず実行しないといけないとなってしまった場合、相続人が「相続したくない財産」も遺言によって引き継がなくてはならなくなる場合も出てきてしまいますよね。そのことを考えると実際に財産を受け継ぐ共同相続人間での同意があれば、相続人の意志によって遺言と異なる分割が行われることを認めるのは納得できます(各相続人に認められている「相続の放棄」も同じ考え方ですよね)。 ただし、この点について実は一つだけ被相続人の意思が反映されるべき例外があるんです。先ほどの907条の説明の際にあえて触れなかったのですが、「次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、」と書いてありましたね。その次条とは民法908条のことですが、908条の全文は以下のようになっています。

第908条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

つまり、遺産分割を禁止する遺言も可能、ということです。例えば「相続人間の仲が悪く、自分の死後に争族が起こることを危惧した被相続人が、数年間遺産分割を禁止する旨の遺言を残し、その間に相続人間の関係が修復すること願う」などということがあります。このような遺言が残された場合、指定された年数の間は協議による遺産分割が出来ないことになります。
さて、ここでお考えいただきたいことがあります。
相続が発生したら相続税が発生しますが、その相続税の申告と納税期限はいつだったでしょうか?「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内」でしたね。では、例えば遺言によって3年間の遺産分割を禁止された場合は相続税の申告と納税はどうなるのでしょうか?
その答えは「期限内に申告と納税を完了させたほうがいい」となるんです。「させた方がいい」という曖昧に書いた理由は、遺産分割が決まっていないからという理由であっても、申告と納税をしないことによるデメリットがあまりに大きいからです。どのようなデメリットがあるかというと「配偶者に対する相続税額の軽減が使えない」「小規模宅地の特例が使えない」「物納ができない」「非上場株式等の納税猶予が使えない」などが代表的に挙げられます。どれも聞いたことがある名称ですよね?申告と納税をしないと、これらの特例を適用できずに、とても大きな損をすることになるのがご理解いただけると思います。
でも、決まっていないのにどうやって申告すればいいの?と思いますよね?実はその方法がちゃんと用意されているんです。デメリットを多少なりともカバーできる方法です。
まず、期限内に仮の申告と仮の納税をしっかり行っておきます。これは必須です。
そして、さらに同時に「申告期限後3年以内の分割見込書」という1枚のA4版の書類を税務署に提出しておきます。これにより税務署は配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例などの特例の適用を待ってくれます。場合によっては一枚のA4用紙が数十万、数百万のメリットを出す金券になってしまう、というと大げさですが、それぐらいの価値を持つ手続きになります。そして、正式に遺産分割が決まった段階で正しい申告書を提出して、正しい納税をすることになります。
仮の申告と納税、そして正しい申告と納税・・・、内容が複雑になるでしょうからしっかり専門家に相談することが求められそうですね。相活士の皆さんも、相続を学習する上では、このような対処法があることを知っておくといいですよね。

繰り返しますが、遺産分割協議は、共同相続人全員の同意がなければ成立しません。相続人のうち一人でも同意しなかったり、協議ができない相続人がいたり、または一部の相続人を排除したりする場合は協議分割は出来ませんので、そのときは裁判所による調停や審判によって解決を図ることになります。次回は遺産分割協議がまとまらないときの次の段階である「調停分割」についてお話しします。

 

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