今回は、相続させる人が先に亡くなった場合に備える遺言、予備的遺言について解説をしていきます。
<事例>
Aには、妻のX、AとXとの子である、長女Y、長男Zがいます。Aは、令和5年2月1日、念のために遺言書を作成しようと考えて、「全財産を配偶者であるXに相続させる。万が一、配偶者のXが先に死亡した場合には、長女であるYに全財産を相続させる」という内容が記載された遺言書を作成しました。この遺言の効力はどうなるでしょうか。
<解説>
⑴ そもそも、「全財産を配偶者であるXに相続させる。」との遺言(以下、「主位的遺言」と言います。)のみの記載にとどまる場合、配偶者のXが、遺言者であるAよりも先に死亡した場合には、この遺言の効力は失われ、無効となります。つまり、その記載はなかったことになります。
この場合には、遺言者であるAは、改めて遺言書を作成する必要があります。もっとも、配偶者であるXの死亡後、遺言者であるAが遺言書を作成しないこともありえますし、そもそも遺言能力を有していない可能性もあります。そのため、Aが遺言書を作成しないまま(又は、作成できないまま)、Aが死亡した場合には遺言が存在しないこととなり、Aの遺産は、未分割の相続財産として、相続人全員の共有となり、相続人全員の遺産分割協議でその財産の帰属を決めなければならないことになります。
そこで、予め「万が一、配偶者のXが先に死亡した場合には、長女であるYに全財産を相続させる」(以下「予備的遺言」といいます。)との遺言を作成することが考えられます。
⑵ この点、遺言には条件を付することができるため、予備的遺言についても、「遺言者の死亡前に配偶者が死亡したこと」を条件として、当該遺言が有効に成立することになり、予備的遺言は有効となります。
この場合には、長女であるYに全財産を相続させることになります。
また、併せて問題となるのが、遺言者AとXが同時に死亡した場合についてです。
例えば、遺言者AとXが同じ自動車に乗車していて、同じ事故に遭遇し同時に死亡した場合には、どうなるでしょうか。
遺言書には、「全財産を配偶者であるXに相続させる。万が一、配偶者のXが先に死亡した場合には、長女であるYに全財産を相続させる」とのみ記載されていますので、同時に死亡した場合においても、「長女であるYに全財産を相続させる」が適用されるのか否かが明らかではないため、解釈の余地が生じてしまいます。つまり、事案に応じて判断せざるを得ないことになってしまいます。
そこで、このような場合に対処するためにも、「全財産を配偶者であるXに相続させる。万が一、配偶者のXが先に死亡した場合(同時に死亡した場合も含む。)には、長女であるYに全財産を相続させる」などと明記することにより、なるべく解釈の余地をなくすことが考えられます。
以上