第62回 所有者不明の不動産

 イメージ

熊本 健人

2023-02-14

第62回 所有者不明の不動産

  • sns_icon01

民法が改正され、所有者が不明の土地・建物の管理制度が2023年4月1日から施行されます。
今回は、この所有者不明土地・建物管理制度について解説します。

<CASE>
Aは、Bに土地を賃貸している。Bは土地上に建物を建築し居住していたが、その後死亡し相続が生じた。
建物は、現在空き家になっており、Aは相続人が誰か分からず、建物の所有者を特定できないでいる。
Aは、最近発生した台風の影響で建物が倒壊しそうな状態であるため、誰かに管理してもらいたいと考えている。

<従来の制度>

土地・建物の所有者が行方不明の場合、不在者財産管理人を選任し土地・建物の管理をさせる制度があります(民法25条1項)。
また、土地や建物の所有者が死亡し、相続人のあることが明らかでない場合は、
相続財産管理人を選任し土地・建物を管理させる制度もあります(民法952条1項)。

(不在者の財産の管理)
第二十五条 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)が
その財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、
利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。
本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
2 略

(相続財産の管理人の選任)
第九百五十二条 前条の場合(※相続人のあることが明らかでないとき)には、家庭裁判所は、
利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 略

しかしながら、これらの制度は、土地・建物のみの管理に限られた制度ではないため、
管理人は、対象者の財産全般について調査を尽くす必要があります。
たとえば、対象者の預貯金やその他の不動産等を含めた財産についても1つ1つ調査を行う必要があるため、
<CASE>のように特定の建物のみの管理を任せたい場合には非効率な制度となります。
また、これらの制度は、そもそも対象者が特定できない場合には利用することができませんし、
仮に特定できた場合でも、これらの制度の申立には高額な予納金を準備する必要があるため、ハードルが高いといえるでしょう。

<民法改正による新制度>

そこで、こうした問題を改善するため、所有者不明の土地・建物の管理に関する法整備が進められてきました。
そして、近時の民法改正により、所有者不明の土地・建物に関し、裁判所による管理命令を発令することができる規定が新設されました(改正民法第264条の2第1項、第264条の8第1項)。
この規定により、裁判所から管理命令が発令された場合には、当該土地・建物の管理を、裁判所により選任された管理人が行うことができるようになります(改正民法第264条の3第1項、第264条の8第5項)。

(所有者不明土地管理命令)
第264条の2
1.裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、
必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(第4項に規定する所有者不明土地管理人をいう。
以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という 。)をすることができる。
2. 略
3. 略
4.裁判所は、所有者不明土地管理命令をする場合には、当該所有者不明土地管理命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならない。

(所有者不明土地管理人の権限)
第264条の3
1.前条第4項の規定により所有者不明土地管理人が選任された場合には、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産(以下「所有者不明土地等」という。) の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属する。
2. 略

(所有者不明建物管理命令)
第264条の8
1.裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物(建物が数人の共有に属する場合にあっては、
共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物の共有持分)について、必要があると認めるときは、
利害関係人の請求により、その請求に係る建物又は共有持分を対象として、所有者不明建物管理人(第4項に規定する所有者不明建物管理人をいう。
以下この条において同じ。)による管理を命ずる処分(以下この条において「所有者不明建物管理命令」という。)をすることができる。
2~4 略
5.第264条の3から前条までの規定は、所有者不明建物管理命令及び所有者不明建物管理人について準用する。


以上のような民法改正により、所有者不明の土地・建物については、裁判所が所有者不明土地・建物管理人を選任し、その管理人が裁判所の許可を得て建物を管理することができるようになりました。この制度は、2023年4月1日から施行されます。

熊本 健人 イメージ

熊本 健人

学習院大学法学部卒業
神戸大学法科大学院修了

人気記事

  • 広告
  • 広告
  • 広告
  • 広告
  • 広告

遺言や相続でのお悩みを
私達が解決します。

フリーダイヤル0120-131-554受付時間 : 平日9:00〜17:00