新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、世間ではオンライン会議が浸透してきました。
今回は、相続に関連して、オンラインでの遺産分割協議ができるのか、という点について解説していきます。
オンラインでの遺産分割協議
遺産分割協議というと、相続人全員が実家などに集まり、膝を突き合わせて話をするというイメージが強いかと思いますが、民法では、遺産分割における協議の方法については何も規定されていませんので、必ずしも全員が一同に介して話し合いを行う必要はありません。
遺産分割を成立させるためには、相続人全員が、遺産分割の内容を理解し、その内容を合意すればよいため、電話や手紙でのやり取りは勿論、メール、LINE、zoomなどのオンラインツールを利用したやり取りでも協議を行うことができます。
各相続人は、家庭を持っていたり、勤務時間や休日が異なっていたり、遠方で暮らしていたり、その事情は様々です。遠方の場合は、たとえば実家に帰るのにも交通費がかかってしまいます。そのため、同じ時間、同じ場所に全員が集まることはなかなか難く、効率も悪いでしょう。このような不都合を解消するための1つの方法が、ビデオ通話などを利用したオンラインによる遺産分割協議です。電話で話し合いを行うことも考えられますが、複数人が同時に通話することがなかなか難しいため、zoomなどのオンライン会議のツールを使用することは有用です。たとえば、zoomの場合、画面共有の機能がありますので、遺産分割協議書の案文を画面共有しながら、1人1人同時に内容を確認し、全員が内容に同意すれば、あとは書面を順番に送付し、それぞれ押印してもらえれば遺産分割協議書は完成します。
オンラインでの遺産分割調停
相続人間での話し合いで協議がまとまらなければ、家庭裁判所に調停を申し立てる必要がありますが、調停の場合は、指定された日時に家庭裁判所に出頭するのが原則です。もっとも、相続人全員が、裁判所に近いところに住んでいるのであれば良いのですが、相続人が各地バラバラに居住している場合は、全員が裁判所に出頭することが難しいこともあります。
また、調停は、原則として「相手方の住所地」を管轄する家庭裁判所に申し立てる必要がありますので、申立を行う側の当事者にとっては、遠方の裁判所に出頭するには時間的なコストや、交通費や弁護士の出張費などのコストがかかってしまいます。
このような事情を踏まえ、家事事件手続法では、「家庭裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、家庭裁判所及び当事者双方が音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、家事審判の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができる」(家事事件手続法第258条1項、第54条1項)との規定を設け、電話会議の方法によって期日に出頭することが認められています。
(音声の送受信による通話の方法による手続)
第五十四条 家庭裁判所は、当事者が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、
当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、家庭裁判所及び当事者双方が音声の
送受信により同時に通話をすることができる方法によって、
家事審判の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができる
2 略
(家事審判の手続の規定の準用等)
第二百五十八条 略
弁護士が代理人に就いている調停の場合は、第1回目期日から電話会議による開催が認められるのが一般的ですが、弁護士を就けずに調停を行う場合は、裁判所によっては、本人確認などの理由で出頭を求められる可能性がありますので、第1回目期日から電話会議による出席が可能かどうかについては、事前に裁判所に確認しておく必要があります。
また、最近、ウェブ会議によるオンライン上での裁判手続の整備も進んでおり、家庭裁判所においても、近い将来、電話会議のみならず、ウェブ会議による期日の開催が現実的になると思われます。ウェブ会議が可能となれば、先ほどのzoomによる遺産分割協議のように、裁判所が間に入った状態で、当事者が画面上で顔を合わせ、書面を画面で共有しながら話し合いができるようになりますので、電話会議よりも話し合いがさらに進むことが期待されます。