第43回 遺言書の有効性について

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益子 真輝

2021-11-05

第43回 遺言書の有効性について

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はじめに

今回は、不倫関係のある相手に対して遺言書により遺贈をした場合、遺言書が公序良俗(民法90条)に反して無効となるか否かについて、最高裁判決(最判昭和61年11月20日民集四〇・七・一一六七)を参照しながら、解説したいと思います。

事案の概要

今回紹介する、最高裁判決の概要は、以下のとおりです。
妻子あるA(昭和50年10月25日死亡)は、36歳年下のY(女性)と、死亡まで約7年間半同棲していました。AとYは昭和41年ごろに知り合い、昭和44年ごろから半同棲状態でした。昭和46年ごろには、一時は喧嘩や別れ話もあり、交際がなくなったこともあるのですが、その後間もなく交際は復活し、Aのマンションで同棲したりして、関係が続いていました。Aの妻X1と娘X2は、昭和40年ごろからAと別居し、Aとの交流は希薄でした。また、夫婦の実体はある程度なくなっていたという状況です。また、Aの家族は、AとYの関係を早くから知っていました。
そして、AがYのマンションを訪れた昭和49年8月21日において、Aは、「小生が死亡せる場合はX2に全遺産の参分の壱、X1に同参分の壱、Yに同参分の壱を贈与することを確言する。……」という遺言書(以下「本件遺言」といいます。)を残しました。
そこで、X1・X2は、本件遺言は、公序良俗に反し無効であると主張し、Yは、本件遺言は公序良俗に反しないとして有効であると主張し、裁判では、本件遺言の有効性が争われました。

裁判所の判断

最高裁では、以下のとおり判示しました。
まずは、「(1)亡Aは妻である上告人X1がいたにもかかわらず、被上告人Yと遅くとも昭和四四年ごろから死亡時まで約七年間いわば半同棲のような形で不倫な関係を継続したものであるが、」と判示し、AとYが不倫関係を継続していたことを示しました。
その次に、本件遺言が、不倫関係を維持する目的(⇒無効)で行われているのか、それとも生計をもっぱら頼っていた女性の生活を保全するための目的(⇒有効)なのかについて検討しています。その際には、遺言の相続人に対する影響(妻との関係、女性との関係、遺言作成時期の状況、妻や相続人の状況、遺贈の金額)なども総合的に考慮して目的を検討し、公序良俗違反であるかどうかを判断しています。本件では、考慮している事情は判決文によると以下のとおりです。
AとYが不倫関係を継続していた期間の「昭和四六年一月ころ一時関係を清算しようとする動きがあつたものの、間もなく両者の関係は復活し、その後も継続して交際した、(2)被上告人Yとの関係は早期の時点で亡Aの家族に公然となつており、他方亡Aと上告人X1間の夫婦関係は昭和四〇年ころからすでに別々に生活する等その交流は希薄となり、夫婦としての実体はある程度喪失していた、(3)本件遺言は、死亡約一年二か月前に作成されたが、遺言の作成前後において両者の親密度が特段増減したという事情もない」としています。
それに加えて、本件遺言の内容が相続人ら(X)の生活の基盤を脅かすものとはいえない事情として「(4)本件遺言の内容は、妻である上告人X1、子である上告人X2及び被上告人Yに全遺産の三分の一ずつを遺贈するものであり、当時の民法上の妻の法定相続分は三分の一であり、上告人X2がすでに嫁いで高校の講師等をしている」を挙げました。
それらの事情を踏まえて、「本件遺言は不倫な関係の維持継続を目的とするものではなく、もつぱら生計を亡Aに頼つていた被上告人Yの生活を保全するためにされたものというべきであり、また、右遺言の内容が相続人らの生活の基盤を脅かすものとはいえないとして、本件遺言が民法九〇条に違反し無効であると解すべきではない」と判示しました。
したがって、結論としては、本件遺言は、公序良俗に反せず有効となりました。

まとめ

本判決においては、「不倫な関係」にある者に対しての遺贈については、目的によって、有効となったり無効となったりするということを示しています。そのため、「不倫な関係」にある者に対しての遺贈は、「不倫な関係の維持継続を目的」とする場合には無効だが、もっぱら生計維持のための目的である場合には有効となりうるということになります。


以下、参照した民法の条文です。

(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

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益子 真輝

同志社大学法学部法律学科卒業
神戸大学法科大学院修了

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