第42回 遺言書の文言解釈について(その③)

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益子 真輝

2021-11-02

第42回 遺言書の文言解釈について(その③)

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はじめに

今回も、遺言書の文言がどのような基準で解釈されてきたかを、最高裁判決(最判平成23年2月22日民集六五・二・六九九)を参照しながら、解説したいと思います。

事案の概要

今回紹介する、最高裁判決の概要は、以下のとおりです。
亡くなったA(被相続人)には、亡夫との子である長男Bと長女Xがいました。Aは、平成18年9月23日に死亡し、Bは、その約3か月前(平成18年6月21日)に死亡していました。Aの死亡時におけるAの法定相続人は、Xと、Bの代襲者であるY2・Y3・Y4(BとY1との間の子)です。
Aは、平成5年2月17日に公正証書遺言を作成し(以下「本件遺言」といいます)、本件遺言には、「Aの所有に係る財産全部をBに相続させる」旨が記載されていました。
もっとも、Xは、Bが死亡したため、本件遺言が失効したと主張し、一方、Y2らは、BがAより先に死亡した場合であっても、本件遺言に基づきAの遺産をBの代襲者であるY2らが代襲相続するのであり、本件遺言は効力を失うものではないと主張し、本件遺言の文言解釈が問題となりました。

裁判所の判断

最高裁は、以下のとおり判示しました。

1 規範
(1)判決文
「遺言をする者は、一般に、各推定相続人との関係においては、その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係、各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力、特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無、程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。このことは、遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し、当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する「相続させる」旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく、このような「相続させる」旨の遺言をした遺言者は、通常、遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。
 したがって、上記のような「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。」との規範を定立しました。

(2)解説
判決文では、「相続させる」旨の遺言(「相続させる」旨の遺言についての詳細は、「第19回 遺言の解釈・相続させる旨の遺言」をご参照ください。)についても、原則、受益相続人(相続財産を受取る人のことで、本件では本来はBになります。)である、その人に着目して遺言をするものであるとしました。そのため、「相続させる」旨の遺言をした遺言者Aは、通常であれば、遺言書を作成する際などにおいて、特定の推定相続人(たとえば、Bなど)に遺産を取得させる意思を有するにとどまるものであるとしました。そのため、受益相続人BがAよりも先に死亡している場合には、「Aの所有に係る財産全部をBに相続させる」などの文言は、原則無効であるとしました。
もっとも、例外として、遺言者Aが、受益相続人Bが先に死亡したときは,受益相続人Bの代襲者(Y2ら)その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情がある場合には、「受益相続人Bの代襲者(Y2ら)その他の者に当該財産を承継させる」と解釈することもでき、有効であるとしました。

2 本件における検討
(1)判決文
「前記事実関係によれば、BはAの死亡以前に死亡したものであり、本件遺言書には、Aの遺産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項のわずか2か条しかなく、BがAの死亡以前に死亡した場合にBが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上、本件遺言書作成当時、Aが上記の場合に遺産を承継する者についての考慮をしていなかったことは所論も前提としているところであるから、上記特段の事情があるとはいえず、本件遺言は、その効力を生ずることはないというべきである。」としました。

(2)解説
本件においては、ⅰ本件遺言には、「Aの遺産全部をBに相続させる」旨を記載した条項と遺言執行者の指定に係る条項のわずか2か条しかなかったこと、ⅱまた、BがAよりも先に死亡する場合において、Bが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はないこと、ⅲ本件遺言書作成当時、Aが、Aが死亡するよりも前にBが死亡した場合、遺産を承継させる他の者についての考慮をしていなかったことなどから、「当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情」があるとはいえないとして、本件文言は効力を生じることはないとして、無効という判断をしました。

なお、「特段の事情」となる場合については、今後判例が集積されていくものと思われますが、遺言者において、相続人が先に死亡した場合にその代襲者が取得することを望むときは、その旨を遺言書で明示しておくことがより適切であると思われます。
逆に、これを望まないときは、明文の規定(民法994条1項)のある「遺贈」の文言を用いることや、予備的条項を入れておくなどして、遺言者の意図しない解釈の余地を残さないようにすることが考えられます。

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益子 真輝

同志社大学法学部法律学科卒業
神戸大学法科大学院修了

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