第30回 配偶者の居住の権利(その2):配偶者居住権②

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新留 治

2020-10-06

第30回 配偶者の居住の権利(その2):配偶者居住権②

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はじめに

前回、被相続人(遺言者)の妻又は夫である配偶者(以下、「配偶者」といいます。)の居住の権利について、「配偶者居住権」及び「配偶者短期居住権」の2種類があること、配偶者居住権の創設された目的及びその成立要件についてご紹介しました。
改正民法では、相続・遺言に関して、いくつかの重要な法改正がなされ、その一つとして配偶者が被相続人の死亡後も生活を継続できるように、生活の根幹となる居所の確保を可能とする配偶者の居住権に関する制度が創設されました。配偶者の居住権には、大きく分けて「配偶者居住権」(民法第1028条~第1036条)と「配偶者短期居住権」(民法第1037条~第1041条)の二つがありますが、その成立要件や効果といった権利の中身や適用される場面などを比べると大きく異なります。
以下では、前回に引き続き「配偶者居住権」の成立要件について述べていきま

配偶者居住権の成立要件とは

 配偶者居住権の成立要件は、①配偶者が被相続人の死亡時に被相続人の所有する建物に居住していたこと、②その建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割、や遺贈がなされることです。民法上の規定は以下のとおりです。
(配偶者居住権)
第千二十八条 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

「遺産の分割」による配偶者居住権の取得とは

上記規定のとおり、成立要件の②として、配偶者居住権を取得するために「遺産の分割」が必要であるとされています。この「遺産の分割」には、相続人同士での話し合いである「遺産分割協議」だけでなく、家庭裁判所にて行われる遺産分割の審判も含まれます。そのため、たとえ相続人の中で、配偶者居住権に反対する者がいたとしても、遺産分割の審判を申し立て、審判手続きの中で配偶者居住権の成立要件を充足すると判断されれば、配偶者は、配偶者居住権を取得することができるようにみえます。
 しかしながら、居住建物の所有者となる相続人が配偶者居住権の設定に反対している場合に、上記遺産分割の審判により配偶者に配偶者居住権を取得させることとなると、遺産分割に関する争いが終結した後でも、なお配偶者と所有者との間で紛争が生じるおそれがあります。そこで、遺産分割の審判により配偶者居住権を取得させるためには、①共同相続人の間で、配偶者に配偶者居住権を取得させることについて合意が成立しているか、②配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持させるために特に必要があると認められることのいずれかの要件を満たす必要があります。民法上の規定は以下のとおりです。

(審判による配偶者居住権の取得)
第千二十九条 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。

 配偶者居住権は、その効果の箇所で詳しく説明しますが、配偶者が終身、無償で居住建物を使用することができる権利ですので、居住建物の所有者にとってみると、通常の賃貸借の場合に比べて、制限を受ける程度が大きくなります。具体的には、当該居住建物を売却することは困難となり、当該居住建物を担保として金融機関から融資を受けるにしても担保価値を低く評価されるということが予想されます。
他方で、配偶者居住権を取得する配偶者にも一定のリスクがあります。例えば、配偶者が高齢になり、自宅での介護が困難なため高齢者施設への入居が必要となることも十分考えられるところ、遺産分割で不動産の所有権や金融資産を取得していれば、これらを処分して入居資金とすることもできますが、配偶者居住権として取得していた場合、処分して金銭を得るということができず、入居資金を確保できないという問題があり得ます。
 このような事情を踏まえて、遺産分割の審判では、居住建物の所有者の受ける不利益と配偶者の配偶者居住権を取得することにより得られる利益を総合的に検討した上で、配偶者居住権の取得の可否を決することとなります。

 配偶者居住権の遺産分割の審判における成立要件に関する説明は以上になります。次回も、配偶者居住権についてご紹介します。

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新留 治

神戸大学法学部卒
神戸大学法科大学院修了

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