はじめに
前回、遺言執行が終了する場合の一つである遺言執行者の解任及び辞任に関してご紹介しましたが、今回は遺言執行の終了に際して必要となる手続きについてご紹介します。
従前ご説明したとおり、遺言執行者は、遺言の内容を実現し、遺言に基づく権利の実現とそれに関連して必要となる事務を行う者であるところ、遺言の内容をスムーズに実現するために遺言執行者を指定・選任しておくことが有益です。遺言執行がその遺言書の内容通りにすべて滞りなく進められた場合、遺言執行者による遺言執行に関する任務は終了し、遺言執行者は、その遺言執行者としての地位を喪失することになります。もっとも、遺言執行者は、その任務終了に際して、法律上定められた手続きを履践することが求められます。
以下では、遺言執行の終了に際して必要な手続きについて述べていきます。
遺言執行の終了に際して必要な手続きとは
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。そして遺言執行者の権利義務及び任務の終了に関しては、民法の委任契約に関する規定が準用され、当該規定にしたがって、遺言執行者は、各種義務を負うことになります。民法上の規定は以下のとおりです。
(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 (省略)
3 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
(委任の規定の準用)
第千二十条 第六百五十四条及び第六百五十五条の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。
⑴ 報告義務
遺言執行者は、相続人の請求があるときは、いつでも執行手続きの処理状況を報告し、執行手続きが終了した後は、遅滞なくその経過及びその結果を報告しなければなりません。準用される民法上の規定は以下のとおりです。
(受任者による報告)
第六百四十五条 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
⑵ 受取物引渡し等の義務
遺言執行者は、遺言執行にあたり、関係者等から受け取った金銭その他の物を相続人に引き渡さなければならず、相続人のために自己の名をもって取得した権利を相続人に移転しなければなりません。準用される民法上の規定は以下のとおりです。
(受任者による受取物の引渡し等)
第六百四十六条 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
2 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。
⑶ 任務終了後の善処義務
遺言執行者がその任務を終了したときに時効中断の手続きをとる必要がある場合などの緊急の対応を要する事情があるとき、遺言執行者や相続人または法定代理人は、遺言に関する任務を処理することができるようになるまでの間、必要な措置をとらなければなりません。準用される民法上の規定は以下のとおりです。
(委任の終了後の処分)
第六百五十四条 委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。
⑷ 任務終了通知義務
遺言執行者は、遺言執行が完了しその任務が終了したときは、相続人、受遺者その他の利害関係人にその旨を通知しなければなりません。準用される民法上の規定は以下のとおりです。
(委任の終了の対抗要件)
第六百五十五条 委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない。
任務終了の通知がなされない場合、遺言執行者は、相続人や受遺者等の利害関係人との関係では任務未了として取り扱われ、費用や報酬等の支払を拒まれる可能性があります。
遺言執行者の任務終了に際して必要となる手続きに関する説明は以上になります。次回は、平成30年の民法改正により創設された配偶者居住権等についてご紹介します。
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