「タンス預金はバレないですよね?」
「現金を庭に埋めておこうかしら…」
いろんなご相談いただく中で、こういったことをよく口にされます。
せっかく故人(被相続人)が残してくれたお金を相続税として持っていかれるのは納得がいかない…
よし!タンス預金にして隠しておこう!
お気持ちはよく分かります…
日本には数十兆円ものタンス預金が存在するとも言われています。
しかし…
タンス預金は見事にバレます。
税務当局を甘く見てはいけません。
「絶対にバレるはずがない」と庭に埋めておいた現金を税務署が探し出したという実例もあります。
結論から先に言いますが、隠さずにきちんと申告しましょう!
KSKシステム(国税総合管理システム)によって丸裸
国税局はKSKシステム(国税総合管理システム)によって、私たち国民の資産をしっかりと把握しているのです。
KSKシステムとは、全国の国税局や国税事務所、そして税務署をネットワークで結び、給料の支払調書や確定申告はもちろん、不動産の取引に至るまで、個人と法人の膨大な財産情報を管理しているシステムです。
死亡届が提出されると、市役所や区役所から税務署にその連絡が行くことになっています。税務署は管轄内の死亡者をほぼ全員把握し、KSKシステムを使ってその人が相続税の課税対象かどうか、すぐに分かるようになっているのです。
相続申告の際、「相続税がかかる財産の明細書」を税務署に提出する必要がありますが、税務署はこの書類を精査して、税金逃れの有無をチェックしています。
KSKシステムやマイナンバーなどから得た情報によって、国税局は“この人の財産はこれくらいあるはず”と推測します。その金額と「相続税がかかる財産の明細書」に大きな乖離があると、“これはおかしい!”と税務調査が始まり、現金をタンス預金として隠すなどの行為が発覚するのです。
タンス預金はトラブルの元
実例ですが、相続開始直後から非常に揉めている家庭がありました。
どうも故人が残したタンス預金を誰かが黙って持ち去ったとのこと。タンス預金の存在はごく限られた近親者しか知らないはず。明らかに身内の犯行でしょう。これにより家族は疑心暗鬼になり、遺産分割協議も非常に難航しました。
そもそもタンス預金は、その存在自体を証明する証拠がないことが多く、その存在を知っている近親者か、誰かが勝手に持ち去っても「そんなものはなかった」と主張されるかもしれません。
また、タンス預金そのものがすぐに見つからないこともあります。遺産分割が終わり、相続税の申告も終わってようやく落ち着いたのに、手付かずだった遺品を整理していたら、押し入れの奥から現金の束が見つかった、なんていうこともあります。そうなれば、遺産分割をやり直し、相続税の申告も修正が必要になってくることでしょう。
相続が始まる前からマークされている
税務署は相続が始まる前から、相続税の課税対象となる可能性がある世帯について、贈与の有無などを調べてマークしています。そもそも税務署は国民の所得を管理していますから、誰が年間いくら稼いでいるのかを把握しています。よって、おおよそどの程度の資産を保有しているのかが分かり、予想される相続税も試算できてしまうのです。
税務調査が入ると、かなりの確率で加算税付きで相続税が追徴課税されます。どれだけ税務署が周到な準備をし、確信を持って税務調査を行っているのかを物語っていますよね。
税務署には強い調査権限がある
税務署は過去の所得などをもとに、亡くなった人にどれくらいの資産があるか、おおよそ見当をつけています。お亡くなりになった後6か月くらいで、税務署は遺族に「相続税のお尋ね」という文書を送って問い合わせをします。それでも相続税の申告がなければ調査を始めます。
税務署には強い調査権限があり、亡くなった人の預金口座の過去の(何年にもさかのぼる)入出金も調べることができます。預金口座から多額の出金があれば、遺族にその使い道をヒアリングします。使い道に不審な点があれば、自宅に出向いて財産を隠していないか調査することもできるのです。
どこまでもさかのぼる税務署の執念
所得に対して相続財産が少なすぎる場合は、必ず「どこか」でその現金が使われているはずです。
税務署はその「どこか」を特定するために、過去何年にもさかのぼって口座の入出金記録を確認します。確認される口座は被相続人本人だけでなく、法定相続人、さらには親戚にまで及ぶこともあります。
使途が説明できない多額の入出金については徹底的に追及されます。これをとことん繰り返すことで、やがてタンス預金に辿り着くのです。
税務署の追及は想像以上に厳しい
税務調査官の追及は皆さんが考えている以上に厳しいものです。適当に誤魔化せば引き下がるほど甘くはありません。「こんなに細かいことまで聞くの?」「どうしてそんなことまで知っているの?」ということまで聞いてきますし見てきます。そこから、贈与税の申告漏れなどもまとめて発覚することもあるのです。
つまり、納税者が根負けするまで徹底的に行われます。そのため、上述したような現金を庭に埋めていた事例でも、結局は本人が自白したそうです。税務調査を受けるということは、想像以上のプレッシャーを受けるということを覚えておいてください。
タンス預金が見つかった場合のペナルティ
税務調査で未申告のタンス預金が見つかると、本来の税額に加えて「重加算税」がかかります。重加算税は遺産の隠ぺいや偽装などがあるときに課せられるもので、悪質であると判断された場合には、追加で納付すべき税額に対して、無申告のときは40%、過少申告のときは35%もの税率が課せられます。非常に重いペナルティです。
隠していた金額が大きく、特に悪質な場合は、国税局が検察に告発することもあります。裁判の結果、罰金刑を含めた有罪判決が下される人もいるのです。
一方、相続税の申告をした後に、タンス預金が発見され、修正申告(納税)をするように税務署から指導された場合、相続税の納付期限から実際に修正分を納付するまでの日数に応じて「延滞税」が課せられます。
また、タンス預金を申告しなかったことが故意でなかったとしても、税務署から指導を受けて修正申告をした場合には、「過少申告加算税」あるいは「無申告加算税」が課せられます。
「重加算税」「延滞税」「過少申告加算税」「無申告加算税」それぞれどれくらいの税率で、どれくらいの税金を支払う羽目になるのか、ここではあえて申し上げませんので、皆さん自身でぜひ調べてみてください。
仮に300万円のタンス預金が税務署にバレてしまった…
さて、いくら支払うことになるでしょう?
タンス預金は相続税対策にはならない
そもそもタンス預金は、盗難や近年あちこちで起きている災害(特に水害)に遭うリスクもありますよね。金庫に入れていても、金庫ごとどころか家ごと流されてしまいます…
タンス預金は財産がなくなるリスクがあるうえに、税務署の調査で見つかった場合は、上述のとおり、非常に重たいペナルティが課せられます。タンス預金は相続税対策としては無意味などころか、無用のリスクを負うということがお分かりいただけたと思います。
亡くなった人から遺族に相続されたものは、タンス預金であってもれっきとした遺産であり、相続税の課税対象になります。相続税を申告するときは、タンス預金を含めて正しい内容で申告することが余計な税金を納めなくて済む方法です。
相続人の中には、現預金や株などすべての金融資産までは分からない(バレない)だろうとタカをくくって申告をしなかったり、過少申告したりするケースもありますが、国税局はKSKシステムのデータを駆使して見破るのです。
相続税の申告(納付)期限は死亡してから10か月。基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以上の遺産があるのに相続税が未申告だったり、申告漏れが疑われる場合は事前に銀行に預金の照会をかけるなど、1年あるいはそれ以上の時間をかけて税務調査の対象をじっくりと絞り込むのです。
税務調査が忘れた頃(死後2~3年)にやってくるのはそのためです。
「〇〇税務署です。相続税の件でお宅にお伺いします。」
こんな連絡がいつ入ってきてもおかしくないのです。
まとめ
預金口座から少しずつお金を引き出してタンス預金として持っていても、「引き出した金額に見合う購入物がない」として、何に使ったのかを徹底的にヒアリングされて、資産隠しが発覚します。
資産隠しは追徴課税の対象になるので、故人の資産は隠さずに申告すべきです。
タンス預金をする人には、(金利も低いので)適切な預け先がなかったり、マイナンバー制度の影響を懸念していたりと、様々な事情があります。
ただし、相続税を免れることを目的にしているのであれば、それは無意味でリスクの高い行為でしかないのです。
Q:タンス預金の上手な隠し方を教えてください。
A:残念ながらそんなものは存在しません!