今回は、遺言による推定相続人の廃除についてご説明します。
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1 推定相続人の廃除
廃除とは、被相続人の意思により、推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者のことをいいます。)の相続権を奪う制度です。推定相続人による、被相続人に対する虐待、重大な侮辱又はその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができます(民法第892条)。
遺言によっても廃除をすることが可能です(同法第893条)。
廃除が認められた推定相続人は、相続権が奪われるため、法定相続分だけでなく、遺留分の権利も剥奪されます。
なお、廃除は死亡と同様に代襲原因として定められています(同法第898条第2項及び同第3項)。したがって、たとえば、廃除が認められた推定相続人に子がある場合、その子が代わりに相続(代襲相続)することになります。
2 廃除事由
廃除が認められるためには、推定相続人による、被相続人に対する虐待、重大な侮辱又は著しい非行という廃除事由のいずれかが必要です。
相続権を有する推定相続人から遺留分を含む相続権を剥奪するという強い効力を認める根拠として、廃除事由は、被相続人の主観的な判断では足りず、客観的に被相続人との間の相続的協同関係や親族的信頼関係を破壊する程度のものが必要であるとされ、事案ごとに個別の判断がされます。
3 廃除の手続き
遺言による廃除の場合、遺言執行者が、その遺言が効力を生じた後に、家庭裁判所に廃除の請求を行い、家庭裁判所の審判によって廃除の効果が生じます。
4 遺言による廃除における留意点
上記のとおり、遺言による廃除の場合、遺言執行者による廃除の請求がされ、家庭裁判所により廃除事由の該当性が認められ、審判がされて初めてその効果が生じます。したがって、遺言書に廃除の意思が記載されていることのみを理由として、直ちに廃除の効果が生じるわけではありません。
また、遺言執行者が廃除事由の存在を調査し、家庭裁判所においてその存在を立証する必要がありますが、遺言による廃除の場合、既に死亡している被相続人に対して事実確認をすることが不可能であるため、生前に廃除の意思表示がされた場合と比較して、廃除事由に関する事実確認と立証が困難です。
さらに、遺言執行者の指定(同法第1006条第1項)がされない場合、家庭裁判所に請求して遺言執行者を選任することが必要になり(同法1010条)、廃除に関する事情を十分に知らない遺言執行者が選任され、事実確認と立証がより困難になる可能性があります。
よって、遺言により、相続人の廃除をしようとする場合には、遺言書で廃除をする意思を明記するだけでなく、遺言執行者も指定しておき、かつ、事前に廃除事由に該当すると考える具体的事実及び根拠資料を十分に検討し、その結果を遺言執行者に対して適切に報告しておくべきです。
5 まとめ
家庭裁判所において廃除事由の存否の判断は事案に応じて個別的に判断されるため、事前の判断が難しい場合が多いです。遺言による廃除をしようとする場合、廃除が認められないリスクを減少させ、遺言についての意思を適切に実現させるためにも、遺言書に廃除の意思を明記するだけでなく、遺言執行者も指定しておき、事前に廃除事由に関連する事実と資料を十分に検討し、遺言執行者に対して報告しておくことが大切です。
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