第59回 予備的遺言について(その②)

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益子 真輝

2023-04-21

第59回 予備的遺言について(その②)

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1 事例

Aには、妻のX、AとXとの子である、長女Y、長男Zがいます。Aは、令和5年2月1日、念のために遺言書を作成しようと考えました。Aとしては、相続財産として最も金額が大きくなる可能性の高い保険金受取人について、以下のとおり記載しました。

第●条 遺言者は、●●生命保険株式会社との間で締結した下記生命保険契約の生命保険金の受取人を妻Xから長男Zに変更する。

① 契約締結日 令和●年●月●日
② 記号・番号 記号●●●●、番号●●●●
③ 被保険者  遺言者
④ 保険金額  ●●万円

2 解説

⑴ まず、保険法では、保険金受取人の変更について、遺言の形式によっても自由にできる旨規定されています(保険法44条1項参照)。保険法の当該規定は任意規定であり、当事者間の合意によって、法律の規定とは異なる内容を合意することも可能です。
ただし、保険約款において、遺言の形式による保険金受取人の変更を認めないことを規定されている可能性があります。保険約款の内容を正確に把握するためにも、一度、保険会社に対して確認をすることが望ましいでしょう。

⑵ 次に、保険約款等で、遺言による保険金受取人の変更を規制していなかった場合においても、新受取人長男Zが保険事故の発生前に死亡してしまった場合には、ケースのように遺言にて保険金受取人を変更したとしても、保険金受取人の変更に関する前記遺言は無効となってしまいます。その場合には、当初の保険金受取人がそのまま保険金を受領することとなり、遺言者の意思が実現されないことも起こり得ます。

そのため、「ただし、本遺言の効力が発生したときに、新受取人長男Zが既に死亡していたときは、保険金受取人は長女Yに変更する。」などの予備的遺言を規定することが想定されます。
その他にも、長男Zが、遺言者よりも先に死亡した場合に備えて、長男Zの子ども(Aの孫)に対して、相続させることも想定されます、その場合には、「ただし、本遺言の効力が発生したときに、新受取人Zが既に死亡していたときは、保険金受取人は長男Zの長男●●に変更する。」などと記載することも想定されます。

一方で、予備的遺言を規定していない場合には、遺言者Aは、長男Zの死亡が発覚した後に、改めて遺言書を作成することも想定されます。この点については、保険約款の規定にもよりますが、保険約款等で、遺言による保険金受取人の変更を規制していなかった場合においては、遺言者がさらに保険金受取人を変更する旨の遺言を行うことが可能です。
とはいえ、、長男Zの死亡後、遺言者であるAが遺言書を作成しないこともありえますし、遺言者であるAが、改めて遺言を作成する際には既に、遺言能力を有していない可能性もあります。そのような観点からも、予備的遺言を予め規定するということに一定の意味があります。

⑶ なお、遺言による保険金受取人の変更を保険会社に対抗するには、遺言が効力を生じた(Aが亡くなった時点)後に、被保険者の相続人(X、Y、Zら)が保険会社にその旨を通知することが必要です(保険法44条2項)。

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益子 真輝

同志社大学法学部法律学科卒業
神戸大学法科大学院修了

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