今回は遺留分についてお話します。
遺留分とは
「遺留分」とは、被相続人(亡くなった人)の遺産のうち、兄弟姉妹を除く法定相続人に対して最低限保障される遺産の取得分です。相続には、遺された家族の生活保障や、築いてきた資産の貢献度を保障するという目的があり、この目的を無視して、遺言や贈与等(愛人に全財産をあげるなど)によって、遺産を自由に処分することはできません。相続人たる配偶者、子、親には一定の遺産の取り分、つまり遺留分が認められているのです。
なお、遺留分は、遺言が存在する場合に論点になるものであり、遺言が存在しない場合は、遺産分割協議という当事者間の協議によって遺産をどう分けるかが決まるので、遺留分は論点にはなりえません。
遺留分ケーススタディー
さて、次のような遺言があった場合どうでしょうか。
すべての財産を愛人Y(※注)に遺贈する。
※注:もちろん、愛人なんて書きませんが。
家族の思いなどいざ知らず、この遺言によって相続人の存在を無視して本来権利のない(法定相続人ではない)愛人Yにすべての遺産が渡ってしまうことになるのでしょうか?
ここで登場するのが「遺留分」です。
亡くなった人の財産は、遺言によってその人の意思を尊重して自由に相続先を指定することができます。とはいえ、好き勝手に財産の行き先を決められるわけではありません。家族の力添えがあったからこそ築けた財産も多いでしょうし、赤の他人にすべて相続されてしまったら、遺された家族は納得できないでしょうし、以後の生活に困ってしまうかもしれません。
このような場合を考慮して、民法では「遺留分」という権利を認め、一定範囲の相続人(これを「遺留分権利者」といいます)が一定割合の財産を相続できるようにしています。
つまり、正式に遺言書に記載された内容であったとしても、遺留分を侵害する部分は無効になり、遺留分権利者がその権利を行使すれば、一定割合の財産を相続することができます。この遺留分の権利を行使することを遺留分侵害額請求といいます。
誰が遺留分権利者?
では、誰が遺留分権利者になるのでしょうか。
なんとなく法定相続人であることは思い浮かびますよね。おおよそそのとおりなのですが、ここで注意すべきなのは“すべての法定相続人に遺留分が認められているわけではない”ことです。遺留分権利者になれるのは、法定相続人のうち、①被相続人の配偶者、②被相続人の子(及び代襲相続人)③被相続人の(直系尊属である)父母、祖父母(注:被相続人に子がいれば、父母は相続人にはならないので、この場合には遺留分権利者にもなりません)です。
お気づきの方も多いでしょうが、被相続人の兄弟姉妹はたとえ法定相続人であったとしても遺留分が認められていないのです。兄弟姉妹は、“相続の世界”では、遠い存在といえます。というわけで、遺留分権利者の範囲は法定相続人の範囲より狭くなっています。
では、なぜ兄弟姉妹には遺留分が認められないのでしょうか?
その理由は、一般的に兄弟姉妹は被相続人とは別世帯を有しているため、財産形成に貢献しているとは言えないからと考えられます。
請求できる遺留分の割合はどれくらい?
遺留分を請求できる“一定割合の財産”とはどれほどの割合なのでしょうか?
原則として、法定相続分の2分の1(直系尊属のみの場合は3分の1)です。
具体的に以下、ケースごとに見てみましょう。
①法定相続人が配偶者と子ども1名の場合
法定相続分は配偶者が2分の1、子どもが2分の1。
遺留分はその2分の1なので、配偶者が4分の1、子どもが4分の1。
②法定相続人が配偶者と子ども2名の場合
法定相続分は配偶者が2分の1、子どもがそれぞれ4分の1ずつ。
遺留分はその2分の1なので、配偶者が4分の1。子どもが8分の1ずつ。
③法定相続人が配偶者と親(直系尊属)の場合
法定相続分は配偶者が3分の2、親が全体で3分の1(父と母がともに健在であればそれぞれ6分の1ずつ)。
遺留分はその2分の1なので、配偶者が3分の1、親が全体で6分の1(父と母がともに健在であればそれぞれ12分の1ずつ)。
④法定相続人が親(直系尊属)のみの場合
法定相続分は親が100%。
遺留分は全体で3分の1(父と母がともに健在であれば6分の1ずつ)。
⑤法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合
法定相続分は配偶者が4分の3、兄弟姉妹が全体で4分の1。
遺留分は兄弟姉妹には認められていないので、配偶者が全体の2分の1、兄弟姉妹はゼロ。
※法定相続分の2分の1ということで、配偶者の遺留分は4分の3×2分の1で、8分の3と勘違いしがちですが、兄弟姉妹には遺留分がないので、配偶者が相続財産全体の2分の1を請求できることになります。
⑥法定相続人が兄弟姉妹だけの場合
法定相続分は兄弟姉妹が100%。
遺留分は兄弟姉妹には認められていないのでゼロ。
遺言で第三者にすべての遺産を遺贈する、と書かれていた場合は、兄弟姉妹は一切相続することができません。
具体的な計算をしてみましょう。
相続人たる妻と子ども2人の計3人がいて、財産の総額が1000万円である場合、遺言がなく法定相続分で分けるとするならば妻が500万円(2分の1)、子ども2人がそれぞれ250万円(4分の1)
ずつを相続することになります。
さて、ここで愛人Yが登場してきて、遺言によって「愛人Yに全て財産を遺贈する」とされていた場合、遺留分はどうなるでしょうか。この場合の遺留分は法定相続分の2分の1ですので、妻が250万円、子供2人がそれぞれ125万円ずつとなります。
遺留分のおかげで、遺産の半分は(愛人Yに対して)請求することによって取り戻せることになります・・・と、考えるのはちょっと早いかもしれません。“半分しか取り戻せない”と考えることもできますよね。この愛人は500万円相続することができてしまうのです。
皆さんはこれをどのようにお考えになりますか。
養子の場合はどうなる?
さて相続人の中に、養子がいるケースはどうでしょうか。
結論からいうと、養子の相続分や遺留分は、実子とまったく変わりません。
したがって、養子の場合も、上記で説明した子ども(実子)がいる場合と同じように遺留分を計算することになります。養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組がありますが、どちらも相続分、遺留分の割合に相違はありません。
最後に、遺留分侵害額請求には時効が存在します。
相続(かつ遺留分の侵害)を知ったときから1年、さらに相続(かつ遺留分の侵害)を知らなくても相続開始から10年経過すると時効になります。
時効を迎えてしまうと、遺留分は請求できなくなってしまうのです。