前回に引き続き、相続財産に株式が含まれる場合の手続や問題点などについて解説していきます。
<CASE>
非上場会社である甲社の発行済株式は120株で、Aはそのうち90株を保有している。残りの30株は、Aの子B、C、Dがそれぞれ10株ずつ保有している。
Aが死亡し甲社の株式が相続されたが、遺産分割は未了である。なお、Aに妻はなく、相続人はB、C、Dの3名のみである。
権利行使者をどのように指定するのか
前回の復習からはじめましょう。株式は遺産分割の対象となり、遺産分割未了の株式は、相続人全員の共有になります。そして、共有されている株式について権利を行使する場合、株式の共有者は、権利行使する者1人を共有者の中から定め、会社に対して通知しなければなりませんでした。根拠条文は、会社法第106条でした。
(共有者による権利の行使)
第百六条 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
では、権利行使する者1人をどのように定めればよいでしょうか。<CASE>で、Bが共有状態にある90株について甲社の株主総会で議決権を行使したい場合、具体的にどのような手続を取ればよいかを見ていきます。
実は、会社法には、権利行使者を指定する具体的な方法についての定めはありません。もっとも、判例は、共有となった株式の議決権行使の際の権利行使者の指定に関し、次のように判示しています。
「共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、民法第252条本文により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられるものと解するのが相当である。」(最高裁平成27年2月19日判決)。
(共有物の管理)
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
要するに、議決権の行使をもって直ちに株式を処分するなどの特段の事情が無い限り、議決権の行使は共有物の管理行為に当たるため、原則として、持分の過半数によって権利行使者を定めることができるということです。
<CASE>の場合、BCDの各法定相続分は1/3になるため、Bは、CDのうちどちらか1名の同意が得られれば、過半数である2名以上の同意があることになりますので、自らを権利行使者に指定することができます。そして、Bは、自らが権利行使者に指定されたことを甲社に通知し、甲社の株主総会において、共有状態の90株について自ら議決権を行使することができます。
この場合、指定された権利行使者であるBは、必ずしもCDの意思によって議決権を行使する必要はなく、自己の判断において議決権を行使することが可能であるとされています。すなわち、当該議案に対しCDが反対していたとしても、Bは自己の判断において賛成票を投じることができることになります。
なお、権利行使者の指定は持分の過半数で行うことができるものの、相続人全員で全く協議を行わず、持分の過半数の相続人だけでの話し合いで権利行使者を指定した場合、当該権利行使者の指定が否定されてしまう恐れがあります。そのため、権利行使者の指定に際しては、相続人全員で協議を行ったうえで、決定した内容を書面に残しておくのが望ましいと言えます。
株主名簿の名義書換手続
次に、遺産分割を経て特定の相続人に株式が承継された後の手続を見ていきましょう。<CASE>で、Bが単独で甲社の株式を遺産分割により取得した場合の手続を見ていきます。
Bは、甲社に対して、株主名簿の名義書換請求を行う必要があります。株主名簿とは、現在の株主を把握・管理するため、株主の氏名・名称および住所や持ち株数等を記載・記録した名簿のことです。相続によって株式を取得した場合でも、株主の氏名、住所等に変更が生じますので、株式を取得した相続人は、株主名簿の名義書換を行う必要があります。
では、Bは、具体的にどのような手続を行えばよいでしょうか。
名義書換請求は、原則として、譲渡人と譲受人が共同して申請しなければならないとされています(会社法第133条2項)。
(株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録)
第百三十三条 株式を当該株式を発行した株式会社以外の者から取得した者(当該株式会社を除く。以下この節において「株式取得者」という。)は、当該株式会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。
2 前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。
なぜ単独での申請が認められていないのかというと、単独での申請を認めてしまうと、株式を譲り受けたと偽って名義書換する者が現れ、真の株主の権利を害する恐れがあるためです。
もっとも、株式を取得した者が相続人の場合、元の株主が死亡しており、譲渡人たる元の株主と共同で申請することはできませんので、例外的に、単独での申請が認められています(会社法施行規則第22条1項4号)。
まず、名義書換請求を行う相続人は、株主名簿上の株主が死亡していることを証明する必要があります。通常は、被相続人の除籍謄本を提出することによって証明します。
次に、自らが株式を相続により取得したことも証明する必要がありますので、例えば、戸籍謄本、遺産分割協議書、共同相続人全員の印鑑証明書等によって証明する必要があります。
したがって、Bは、CDとの間で遺産分割協議書を作成し、CDの印鑑証明書を取得した上で、戸籍謄本等を収集し、甲社に対して名義書換請求を単独で行うことになります。
なお、会社が株券発行会社の場合、相続人は株券を提示することにより単独で名義書換の請求を行うことができます(会社法施行規則第22条2項1号)。株券の占有者は、当該株券に係る株式についての権利を適法に有するものと推定されるためです。
(株主名簿記載事項の記載等の請求)
第二十二条 法第百三十三条第二項に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一~三 略
四 株式取得者が一般承継により当該株式会社の株式を取得した者である場合において、当該一般承継を証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき。
五~十一 略
2 一 株式取得者が株券を提示して請求をした場合
二~六 略