第36回 再婚と相続(その①)

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熊本 健人

2021-02-09

第36回 再婚と相続(その①)

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厚生労働省のデータ(「人口動態統計」)によると、離婚件数と離婚率は2002年がピークになっていますので、今後、離婚や再婚に伴って発生する相続問題が増加していくことが予想されます。そこで、今回は、「再婚と相続」をテーマに2つのCASEを検討してみます。

<CASE①>
A男はB子と結婚し、子Cが誕生した。その後、A男は離婚し、D子と再婚した。D子との間には子E・Fが誕生した。A男は、自身に相続が発生した場合、Cには財産を相続させたくないと考えている。

前妻との間の子に相続財産を渡さないための方法は?

CASE①において、A男がB子との間の子Cに財産を相続させたくない場合、どのような方法が考えられるでしょうか。

まず、前提として、A男が死亡した場合に相続人が誰になるのか(推定相続人が誰になるのか)について整理してみます。
A男はD子と再婚しているため、D子は相続人になります。また、E・FもD子の実子であるため相続人です。ではCはどうかというと、CもA男の実子であるためやはり相続人となります。したがって、A男の推定相続人は、C・D・E・Fの4名になります。

では、この場合、A男は、Cに財産を相続させないためにはどうすればよいでしょうか。

生前の相続放棄はできる?

まず、簡単な方法として、Cに相続放棄をさせることが考えられますが、これはできるでしょうか。結論から言うと、被相続人が死亡する前に相続放棄を行うことは認められていません。なぜなら、親が一部の子に対して強制的に相続放棄をさせることによって、弊害が生じることがあり得るからです。そのため、民法では、「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に」相続放棄をすることができる旨を定め(民法915条1項)、被相続人の生前の相続放棄は制度上認められていません。
したがって、仮に、A男がCに対し、予め相続放棄する旨の念書を書かせたとしても、この念書の効力は無効になります。A男の死亡後にCが念書どおりに相続放棄を行わなかったとしても、他の相続人は争うことができませんので、注意が必要です。


(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。

生前の遺留分の放棄はできる?

次に考えられる方法は、遺言です。
A男がCに財産が渡らないような内容の遺言を残すことが考えられます。もっとも、Cは遺留分を有していますので、Cが遺留分侵害額請求権を行使した場合は、Cに財産が渡ってしまうことになります。
では、この遺留分侵害額請求権を事前に放棄させることはできるでしょうか。
結論から言うと、遺留分侵害額請求権の事前放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、認められています(民法1049条1項)。


(遺留分の放棄)
第千四十九条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。


もっとも、家庭裁判所が許可するかどうかは、①遺留分の放棄が権利者の自由意志に基づいているか、②遺留分の放棄の理由に合理性があるか、③遺留分の放棄の代償が支払われているか、といった点が考慮されます。そのため、遺留分権利者に対し、何らの対価も与えることなく遺留分を事前に放棄させることは難しいと言えるでしょう。

他方で、被相続人の死亡後については、遺留分を請求しない旨の意思表示さえ行えば、家庭裁判所の許可なく、遺留分を放棄することが可能です。

推定相続人の廃除とは?

その他の方法として、推定相続人の廃除といった方法があります。


(推定相続人の廃除)
第八百九十二条 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。


遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対し、虐待や侮辱を行い、又は、推定相続人に著しい非行があった場合には、推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができます。したがって、Cにこのような事情があった場合には、A男は推定相続人であるCから相続権を剥奪することが可能になります。

もっとも、推定相続人の廃除は、代襲相続の原因となりますので、廃除された推定相続人に子がいる場合は、代襲相続が発生することになります。したがって、Cに子がいる場合には、そのCの子に財産が渡ってしまう可能性はあります。


以上、見てきたとおり、前妻との間の子Cには遺留分がありますので、遺留分の制約はどうしても受けることになります。もっとも、遺留分侵害額請求権は、相続開始の時から10年を経過した場合には時効によって消滅します(民法1048条)。そのため、遺言書では前妻の子Cのことには何も触れず、そのまま放置しておくという方法も考えられます。そのまま10年が経過すれば、もはや財産がCに渡ることはありません。

CASE②については、次回ご紹介します。

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熊本 健人

学習院大学法学部卒業
神戸大学法科大学院修了

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