弁護士なので悪いようにしない”は幻想
相続の相談を受けているとよくこういうケースに出会います。
<登場人物>
相談者 妹:次美さん(姉である長子さんと母の相続をめぐってトラブル中)
『最近、母が亡くなって、姉の長子と遺産分割でもめています。でも最近、姉の長子は弁護士を入れてきました。その弁護士と私(妹)でやり取りしています』
こういったケースは非常に『危ない』ケースです。
何が危ないのでしょうか?
弁護士は『利益相反になるため二者の双方の代理人にはなりません。片一方の代理人でしかなく』、『弁護士だから悪いようにしないだろう』というのは幻想だということです。
どういうことでしょうか。
民法(108条)にて『双方代理』行為は禁止されています。弁護士は法の専門家ですからこの双方代理は厳格に守ります。よって弁護士は長子さんの代理人であり、妹の次美さんの代理人ではありません。当然、姉妹双方の代理人になれません。よって今回のケースで、姉はA弁護士に頼んでいるわけですから、妹である次美さんはA弁護士ではなく、他のB弁護士に依頼する必要があるわけです。
母の死後、四十九日前後から姉との遺産分割についての話し合いが決裂し、姉の長子さんはA弁護士を雇い、弁護士に言われるまま次美さんは弁護士の事務所に呼び出され、数か月に一度通っていました。そして、そのたびにA弁護士が『あれ出せ、これ出せ』と言い、言われるまま次美さんにとって都合の悪い証拠資料を提出させられ、結果として妹の遺産分割は法定相続分(今回のケースでは2分の1)より少ない遺産分割の証拠ができあがってしまったのです。
最近になって、A弁護士から『次美さんは生前色々とお母さまからもらっていたので、遺産分割について半分を相続させるわけにはいきません。納得いかないのであれば、家事事件として調停に行きましょう。』と言われてしまったのです。まさに弁護士からすれば“カモがネギをしょって来る”といったところです。
次美さん曰く『だって、弁護士さんってすごい人でしょ?そんなすごい人が私に悪いようにするはずはなく、上手く姉の長子と調整してくれるもんだとばかり思っていた』とつぶやきます。しかし、現実には違います。A弁護士は姉の長子さんから報酬ももらっているわけであくまで姉の側です。次美さんは単に『法律を知らなかった』だけ。世の中は『知らなかった』では後の祭りになります。
また、次美さんはなぜ弁護士をいれなかったのでしょう?
それは彼女曰くお金でした。一般的には弁護士に頼むと着手金だけで数十万円、すぐに100万円くらいはお金がかかります。よって次美さんはお金をケチって『長子は弁護士頼んだけど、私はこのまま一人でやってみよう』としたわけです。こういったもめごとで、相手が弁護士を立ててきた場合、自分で対応するのはあまりにも危険です。例えるならば野球をしようと思ったら『相手チームがプロ野球選手を連れてきた。であれば、こちらもプロ選手を連れてくるしかない』と言うような感じでしょうか。プロ相手に素人は危険ということです。上記2点が世間一般では意外と知られていないことです。
争いごとは基本的には弁護士を入れないで当人同士で話し合った方が時間とお金の節約になります。しかし、相手が弁護士を入れた場合、迷わずそのジャンルに精通した弁護士をこちらも雇わないことには『やりたいようにやられてしまう』ものです。お気を付けください。