はじめに
前回、遺言執行者がある場合に遺言執行を妨げるべき行為が行われた場合の効果等に関してご紹介しましたが、今回は、遺言執行の終了する場合ついてご紹介します。
これまでご説明したとおり、遺言執行者は、遺言の内容を実現し、遺言に基づく権利の実現とそれに関連して必要となる事務を行う者であるところ、遺言の内容をスムーズに実現するために遺言執行者を指定・選任しておくことが有益です。遺言執行がその遺言書の内容通りに進められた場合には、何ら問題もなく執行事務を終了させることができますが、遺言執行者がその職務を怠るなどにより遺言執行者として適任ではなく解任する場合や、遺言執行者が執行事務を自らの意思に基づいて辞する場合など、遺言執行の途中で手続きが終了するという場合もあり得ます。
今回は、遺言執行が終了する場合として、遺言執行者の解任及び辞任について述べていきます。
遺言執行者の解任とは
遺言執行者がその任務を怠るなどの一定の事由がある場合に、利害関係人は、家庭裁判所への請求を経て、遺言執行者を解任することができます。民法上の規定は以下のとおりです。
(遺言執行者の解任及び辞任)
第千十九条 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
遺言執行者は、遺言者の意思を実現するという重要な任務を担う以上、その任務を怠った場合など誠実に任務を遂行しない場合には、これを排除する方策が必要とされているため、このような解任に関する規定が設けられています。もっとも、遺言執行者は、相続人等から直接委任を受けているわけではありませんので、その任務を怠ったとしても一方的に解任をするというわけにはいかず、相続人等の利害関係人が、家庭裁判所に解任の請求をする必要があります。
ここでの利害関係人とは、相続人、受遺者、共同遺言執行者(遺言執行者が複数選任されている場合)、遺産に対する債権者、相続人や受遺者の債権者がこれにあたります。
遺言執行者の解任にあたっては、「その任務を怠ったときその他正当な事由」つまり解任事由が必要となります。一般的な解任事由としましては、報告の遅延、相続財産の保管・管理が著しく不十分な場合、相続財産目録の不交付などがあげられますが、他にも遺言執行者が一部の受遺者の利益代表者かのように振る舞い相続人間の遺産分割協議に介入することで紛争を激化させたような場合、特定の相続人と特段に緊密な関係にあり相続人全員の信頼が得られないことが明白であるような場合などもこれにあたるとされています。
遺言執行者の辞任とは
遺言執行者は、正当な事由のあるときは、家庭裁判所の許可を受けて辞任することができます。民法上の規定は以下のとおりです。
(遺言執行者の解任及び辞任)
第千十九条
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
辞任を求める遺言執行者は、家庭裁判所に対して、遺言執行者辞任許可審判の申立てを行います。当該申立てを受けた家庭裁判所は、正当事由があるかどうかの審理の上、これがある場合に、辞任の許可の審判を下します。
ここでの「正当な事由」とは、一般的に執行者に不適切な個人的な事情、例えば疾病、長期の出張、多忙な職務への就職といった事情がある場合とされています。また、遺言執行者が執行を行う意欲を失ったことが正当な事由となるかが問題となりますが、理由なく意欲を失った場合に当然のことながら正当な事由と認められない一方で、相続人間の継続的敵対関係に嫌気がさして公正な遺言の実現が期待しにくい場合であれば正当な事由があるとして、辞任を認めてもよいともいわれています。
辞任は、遺言執行者の地位を辞任することのみ認められ、職務の一部のみを辞任するということは一般的に認められていません。
遺言執行者は、家庭裁判所から辞任許可がなされた場合、相続人及び受遺者に対し、辞任した旨を通知しなければなりません。当該通知をしなければ、相続人および受遺者に対し辞任による執行事務の終了を対抗できず、依然として遺言執行者として執行事務を継続する義務を負うことになります。また、相続人に対し、遅滞なく事務の経過および結果を報告し、受領した金銭その他のものを引き渡さなければなりません。
遺言執行者の辞任及び解任に関する説明は以上になります。次回も、遺言執行の終了する場合の手続き等についてご紹介します。
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