第55回 具体的事例で見る「心理的瑕疵という事故物件」

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江幡 吉昭

2020-07-07

第55回 具体的事例で見る「心理的瑕疵という事故物件」

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今回は、相続により取得した不動産が、心理的瑕疵(※)によって価値が下がってしまった事例をご紹介します。
(※)心理的瑕疵(しんりてきかし)とは、不動産用語で、物件そのものに瑕疵・欠陥があるわけではないが、過去に自殺者を出していたり殺人現場になっていたり、あるいは墓地や宗教団体の施設が隣接していたり、といった買い手・借り手が強い心理的抵抗を感じやすい条件があることを指す語。

お客様の背景

ご相談者の田中さん(仮名)は三人の兄弟姉妹の次男。
今回の被相続人(亡くなった方)は長男のAさんで、相続人が次男の田中さん、妹のCさんです。Aさんは、結婚されておらず生涯独り身でした。
Aさんの遺産は、神奈川県にあるご自宅(土地・建物)と現預金。
ご自宅は当初ご両親が所有していましたが、父親が他界し、その後母親も他界、長男であるAさんが単独で相続されました。
Aさんが相続した後、接している道路の拡幅計画による土地の収用もあって、Aさんは自宅建物を取り壊し、自宅兼店舗を新築しました。店舗部分にはテナント(歯科医院)が入り、家賃収入を得ながら居住していました。
その後、長男Aさんが他界し、田中さんと妹Cさんが共同で所有(2分の1ずつ)することになりましたが、すでに2人はそれぞれ別の場所に住んでいます。そこで、今後利用することもないということで、売却することになったのです。

売却にあたっての希望・条件

■今後利用する予定もないので、売却して現金を2人で分けたい(持分2分の1ずつ)
【理由】それぞれ別の場所で生活しており、維持・管理が大変であるため

■テナントが入居したままで売却してほしい
【理由】テナントを退去させることは難しいため(テナントは歯科医院)

上記内容を踏まえ、売却を進めていたところ、買い手が見つかり、契約条件もスムーズに整いました。ところが、いよいよ迫った契約日の3日前、歯科医院の院長が、院内で突然亡くなってしまったのです。(事故なのか自殺なのか死因不明)

心理的瑕疵物件

まだ契約前ではありましたが、いずれにせよこの事実は買い手に伝えなければなりません。伝えなければ“事実不告知”にあたり、宅建業法違反に該当する可能性があるためです。
すると買い手は、購入は一旦白紙に戻したいとの申し出となりました。さらに、改めて購入する場合の価格は、事が起きる前よりも安くして欲しいと強く要望してきたのです。一般的に、事故物件は相場の2~3割低くなると言われていますが、今回はそれよりもさらに低い価格を提示してきたのです。さすがに田中さん、Cさんもそこまで低くなることは想定していませんでした。そんな中、地道に新しい買い手を探していたところ、事が起きる前の価格の5%引きで購入したいという買い手が見つかりました。ただ、条件が一つあり、建物を解体・撤去すること、でした。しかし、ここでまた問題が発生します。

賃借人の遺族が相続放棄

アパートやマンション、店舗などの借主が個人で、その人が亡くなった場合、その賃借権は相続の対象となります。院長はご結婚されておらず独り身でしたので、相続人になり得るのは、ご両親と弟さんでした。しかし、院長の死亡が確認されてすぐに、相続人全員が相続放棄をしたのです。問題は、建物内にある設備什器、備品などの残置物です。治療機器やレントゲン装置など、そう簡単には売れないものばかりでした。

相続放棄された残置物はどうなるのか

買い手の条件に応じるためには、建物の解体・撤去が必要です。建物内にある残置物の中に院長の所有物があれば、相続人は放棄しているので問題ありません。しかし、誰のものか分からないものは勝手に処分できず、解体・撤去ができない状況になってしまったのです。
通常であれば、家庭裁判所に相続財産管理人を申し立てて、選任する方法が一般的です。選任するにあたっては預託金(一般的には100万円前後)が必要です。また、財産を管理するにも非常に時間を要し、一般的には1年~2年はかかると言われています。しかし、曰く付きの物件になってしまったため、田中さん、Cさんはすぐにでも売りたいため、そんなに時間をかけているわけにはいきませんでした。

まとめ

今回のケースは稀ですが、賃借人が1人だったことが不幸中の幸いでした。結果的に建物を解体・撤去することができました。もし賃借人が複数存在したり、アパートやマンションのように部屋が複数あるケースでは、解体・撤去は非常に難しかったでしょう。このような心理的瑕疵に該当する場合には、告知義務がありますので、告知せずに売却・賃貸するのは難しく、売価あるいは賃料をある程度低くする必要があります。
今回は賃借人が亡くなり、その遺族も相続放棄をしたため、田中さんたち相続人が撤去や解体費用などおよそ500万円を負担することになりました。
一方で、我々は事故物件の取扱い経験も豊富なため、事故物件サイトに掲載されることもなく、当初の売値の5%ダウン程度で、うまく買い手を探すことができました。とはいえ、田中さん、Cさんにとってはかなりの追加費用が発生してしまったわけです。不動産は簡単なようで奥が深く難しい、そんな出来事でした。

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江幡 吉昭

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