第53回 単純承認

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江幡 吉昭

2020-06-08

第53回 単純承認

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前回までは3つの相続方法のうち、相続放棄および限定承認についてお話してきましたが、今回は残りの1つ「単純承認」のお話です。早速ですが、まずは条文を見てみましょう。

意外と奥が深い単純承認

民法第920条
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

この単純承認は、プラスの財産もマイナスの財産も全て相続するわけですから、相続放棄や限定承認に比べて、とても分かりやすいです。わざわざ学習するまでもないと思われるかもしれませんが、実はこの単純承認は意外と単純ではなく、奥が深いんです。

まず、相続開始があったことを知った日から3ヶ月の熟慮期間内(申請することで延長可)に限定承認や相続放棄をしない場合には、単純承認扱いになります。つまり、その3ヶ月以内に何もしなければ単純承認、ということです。
この単純承認は、相続財産を全て受け継ぐことになるので、仮にプラスの財産よりもマイナスの財産の方が多かった場合は、相続人が相続人自身の財産から返済する責任を負うことになります。

さて、基本的には3ヶ月以内に何もしなければ(=相続放棄もしくは限定承認の意思表示をしなければ)単純承認ということだけであれば単純な話なのですが、先ほど「奥が深い」と申し上げたのは、実は相続人が家庭裁判所に意思表示をするかしないかということとは関係なく、熟慮期間内であっても一定の行為をしてしまうと、単純承認をしたと法律によってみなされてしまうことがあるからなんです。これを「法定単純承認」といいます。そして、法定単純承認が成立すると、熟慮期間内であっても限定承認や相続放棄ができなくなってしまうのです(民法第921条)。

その民法第921条をみてみましょう。

第921条
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
1:相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。(但し書きは略)
2:相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
3:相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。(但し書きは略)

法定単純承認ケーススタディー

それでは、1つ具体的な例を見てみましょう。

被相続人Aには、配偶者Xがいる。Aが死亡した2ヶ月後、Xは、AがMに対して有していた債権500万円をMから取り立てて受領した。その後、Aには、Jに対する1,000万円の債務があることが判明した。

この例の場合、配偶者Xは、被相続人の財産を自分のものとして扱っていることになり、自分の財産であるという意思表示とみなされるため、法定単純承認とみなされます。つまり、債権を取り立てて受領した後に、それ以上の債務があることが発覚したとしても、遡って相続放棄や限定承認をすることはできない、ということになります。もし、あとから相続放棄や限定承認ができてしまうと、負債だけを放棄して資産のみを相続するという、不当に利益を得ようとする行為が行われる可能性があるからです。
したがって、熟慮期間内に相続人が相続財産の処分を行ったときには、財産を相続する意思があったと判断されても仕方がない、ということになります(保存行為などの例外はあります)。この法定単純承認が後にトラブルにつながるという話もよく聞きます。

法定単純承認とみなされる行為

法定単純承認とみなされる行為の一例を挙げてみます。

◆被相続人の債権の取り立て(被相続人所有の不動産の賃料請求など)
◆被相続人の債務の弁済(被相続人の滞納税金を支払うなど)
◆被相続人名義の不動産の売却・改修
◆被相続人名義の不動産を相続人名義に名義変更

このほかにも、当たり前ですが、相続財産を隠す・ごまかす、という行為もアウトでしょう(第921条3号)。相続人は、限定承認や相続放棄をした後でも、相続財産を有している間は適切に管理しなければいけない(第926条など)ので、それにもかかわらず相続財産を相続債権者の権利を侵害する目的で意図的に隠したり使ってしまったりする行為をすれば、それはダメでしょ、ということです。

葬儀費用や遺産の形見分けは、原則として単純承認とはみなされない

ちなみに、相応の葬儀費用を相続財産から支払った場合や相応の遺産の形見分けについては原則として単純承認とはみなされません。ですが、葬儀の規模や形見分けについても経済的価値のあるものであれば単純承認したものとみなされてしまう可能性はあります。これにも注意が必要ですね。
このように、被相続人の財産管理が後のトラブルの原因になることがあります。単純承認を単純に考えてはいけないことがお分かりいただけたと思います。相続において、相続放棄・限定承認・単純承認を検討するにあたっては、熟慮期間の3ヶ月をしっかり使いたいものですね。そして、失敗や後悔しないためにも、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。

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江幡 吉昭

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